スーパー・ピューマ、事故!

11月8日、東邦航空の大型ヘリコプターAS332L、JA9672の事故が発生しました。報道によれば、さまざまな目撃証言が得られているようです。これらから、現時点で考えられることは何でしょう?

※ 写真は同型式機AS332Lの操縦席、2015年撮影

いつ?(発生時刻)

午後2時半ごろ、または午後2時25分ごろとされ、付近が停電したと報じられています。Googleマップで見ると事故現場の橋の上空には電線が走っており、墜落時にこの電線が切断されたための停電だと思います。それが「スパークして光を放ちながら落ち…」(TBS)と目撃されたんでしょう。東京電力が停電発生時刻を把握していますから、事故発生時刻は秒単位まで特定できます。

どこで?(事故現場)

群馬県上野村。航空関係者でなくてもピンとくるかもしれません。32年前の夏、JAL123便のB747型機が墜落した御巣鷹山がある村です。村役場にも近い乙母(おとも)地区が今回の事故現場です。住居附(すまいづく)沢川が、神流(かんな)川に合流する地点にかかる橋の上に墜落し炎上したようです。

どのように飛んでいた?(飛行状況)

山梨県早川町から栃木県芳賀町の「栃木ヘリポート」に向かう途中、群馬県上野村の上空を通過していたようです(Googleマップ ↓)。

東邦航空社員の言葉にあるように、「機体に何らかの不具合があり、大事に至る前に予防着陸を試みたということは十分ありえる」(朝日)という可能性が考えられます。ただ、着陸に適当な場所まで飛行する時間的猶予がない状況に陥っていたのではないかと推察します。直ちに着陸する必要に迫られ、さらに目撃証言から、通常の不時着ではなく、オートローテーションによる着陸をしようとしていた可能性もあります。

Googleマップで着陸できそうな場所を探してみると、

  • 事故現場すぐ東側の河原(乙母地区)
  • 事故現場の東2kmほど先の河原(勝山・新羽地区)
  • 事故現場の西南西900mほどのグラウンド

これぐらいしか見当たりません(Googleマップ ↓)。

事故現場の東北東約4km地点に「平原ヘリポート」がありますが、機長がこのヘリポートを知っていたとしても、尾根の先で敷地が狭く、砲台型の高い位置にあるこのヘリポートではオートローテーション着陸は困難だと思います。それ以前に、4km先まで飛行を継続できる状況ではなかったのではないでしょうか。

上野村一帯は急峻な山あいですから、いずれの場所を選んだとしても着陸は容易ではないでしょう。「上空を一周して落ちた」「行ったり来たりして見えた」「Uターンして」などの目撃証言は、狭い川筋に沿って障害となる地形を避け、送電線などの障害物のない進入経路を探して着陸するため、180°ターンなどで高度処理を行ったものと思います。

この地図(地理院地図)から分かるように、グラウンドへの着陸に際しては左右の山肌が一層近くなり、また、送電線を横切ることになるため、オートローテーションではほぼ不可能でしょう。

どのように落ちた?(事故の状況)

報道によれば、テール・ローターがギヤ・ボックスごと分離して、事故現場付近の川の対岸に落ちていたそうです。映像では分離した塊にテール・ローター・ブレード5枚がすべて残っていました。<共同通信 ↓>

また、機体尾部が破断して赤色の安定板が付いたまま川に落ちていました。<産経 ↓>

目撃証言では、「尾翼から部品が飛んだ瞬間にきりもみをしながら墜落」「直前にドローンくらいの大きさのものが落ちた」「機体後部の一部が吹き飛んだ直後、きりもみ状に頭から落ちた」などとされています。

当日、作業現場で20回以上も飛行を繰り返していたそうですから、テール・ローターが機体の不具合で分離することは、まずあり得ないでしょう。従って、外部からの力が加わったことにより分離したと考えられます。ヘリコプターは接地直前に前進速度を落とすため、機首を上げるので機体尾部が下がります。そのとき、橋の上を通っていた電線に機体尾部が引っかかり、引きちぎられたものと思います。

正常に進入していたとしても、電線に引っかかるとその強い張力で機体の姿勢が乱れ、制御ができなくなり、さらにテール・ローターを失うとメイン・ローターの反トルクを打ち消すことができず回転し始めます。この状態を目撃者は「きりもみ」と表現したのでしょう。

そのような状態になってしまうと、ほぼ為すすべがありません。落下して炎上したため、主要な残骸は機体の部位を特定することが困難なほど焼け落ちています。

なぜ、橋の上まで?

乙羽地区の河原に不時着することを決断し、東から進入したのなら、その河原に着陸せずに事故現場の橋の上まで進んだのはなぜでしょう?(Googleストリートビュー ↓)

ストリートビューを見ると、着陸地点付近の河原の上空に、川を渡るように電線が光っていました。これが目に入ったのでしょうか? やむを得ずこの電線を越えたものの、その先には安全に接地させる場所がなく、橋の上の交差点付近の狭いスペースを目指すしかなかった…。ここまでは言い過ぎでしょうが、飛行時間が1万時間を超えるベテランパイロットでも避けることが困難な、選択肢の少ない状況に陥ってしまったのでしょう。

上空で何が起きた?

現時点の報道情報では、まったく分かりません。機体の不具合だろうと思いますが、山岳地帯をVFRで飛行中のヘリコプターの飛行高度では、管制機関や会社に無線は通じなかったでしょう。航空管制用のレーダーにも映っていなかったはずです。スーパー・ピューマを含む、最大重量7トン以上のヘリコプターには、基本的にフライト・レコーダー(FDR/CVR)の装備・作動が義務付けられていますが、最初の登録が古い機体は除外されますので、当該機にはFDR/CVRが装備されていませんでした。

交信記録なし、レーダー航跡記録なし、飛行データ記録(FDR)も操縦室音声記録(CVR)もなしです。その上、機体は炎上し残骸から得られる情報も決して多くはないでしょう。つまり、客観的なデータがほぼ得られない、ということになりますので、目撃情報を丁寧に収集し、それらの総合的な分析により合理的な判断を行い、事故原因に迫っていく必要があります。

<2017.11.10  21:08>

コメント

  1. イカゴロ より:

    久々に、内容の濃い事故関連記事を読ませていただきました。本件系の分析内容は流石ですネ。読み終わり、思わず溜息が出ました。最近、あまりにも小型機やヘリの事故が多いのが残念でなりません。

    • やぶ悟空 やぶ悟空 より:

      まったくです。こんな経験豊富な超ベテランでも遭遇してしまうんですね。若い整備士たちの断ち切られた未来も残念でなりません。

  2. dolce vista より:

    メディア報道の100倍中身が濃いです。流石

    • やぶ悟空 やぶ悟空 より:

      dolce vistaさん、ありがとうございます。
      報道された情報、それも私の目に止まったものからの私見なので、実のところはピントはずれかもしれません。

  3. iudyghj.ll;nll より:

    sinnyounakusuna