11月21日、運輸安全委員会は、これまでに判明した調査内容の一部を公表しました。それは「事故機のテールローターの付け根にあるピンが破断していた。」という事実です。このことと、これまで報道された内容から分かることは何でしょう。
破断したピン
報道された図ではどの部分のピンなのか、よく分かりません。運輸安全委員会ホームページからダウンロードした図(一部)を示します。
WikipediaのこちらにPuma Tail Rotorの高精細な写真があり、この「ピン」も見えます。
「スーパー・ピューマ、事故!」(2017.11.10 21:08) で書いたように、テールローターのブレード(羽根)は5枚とも残っていました。つまり、「テールローターの付け根にあるピンが破断」したが、飛行中にテールローター・ブレードが外れて脱落したわけではなく、ピンは抜け落ちずに最後までブレードを保持していたようです。
緊急着陸
そうは言っても、飛行中にこのピンが破断すると振動が大きくなったはずですので、パイロットはすぐに異常に気が付いたでしょう。これは直ちに着陸しなければならない状況なので、やむを得ず事故現場に近い河原を着陸場所に選定し、Uターンしたものと思います。予防着陸というより、緊急着陸に近いでしょう。
※ Googleマップに加筆しました(↑)
引き返してくる状況は複数の方々に目撃されています。「ヘリ墜落事故 証言でみる墜落の経緯(NHK, 11月9日 18時15分)」によれば、墜落現場からおよそ2キロ東に離れたガソリンスタンドで働いていた従業員は、「ガソリンスタンドのさらに東の方角にある送電線の辺りで急に方向転換をした。それと同時に高度がガクッと下がった」のを見て、「機体は白い煙のようなものに包まれていた」と話していたそうです。
この煙は、テールローターの振動により、テールローターの駆動系が損傷して発煙につながったものかもしれません。操縦にどの程度の影響があったのか分かりませんが、すでにヨー・コントロール(機首方位の制御)に不都合が生じており、オート・ローテーションに入れたことを「高度がガクッと下がった」と目撃されたのかもしれません。
※ 写真は2017.11.8 毎日新聞より(↑)
事故現場のテールローター
報道各社の、河原に落下していたテールローターの写真をよく見ると、新たに次のことに気付きました。
- テールローター・ブレードは5枚とも残っており、4枚はほぼ原形を保っているが、1枚は大きく曲がっている
- 曲がった1枚は、テールローター取付部付近(垂直尾翼の上部)に当たっており、その部分はナイフで切られたような状態に見える
- テールローター取付部のギヤボックスが壊れており、そのフェアリング(カバー)の左側を突き破っている
※ いずれの写真も2017.11.8 毎日新聞より(↑)
推定したシナリオ
これらのことから、以下の状況が起こった(一つの可能性ですが…)のではないかと思いました。
- 飛行中、テールローター・ブレード1枚の付け根にあるピンが破断した
- テールローター全体に振動が発生した
- 振動によりテールローターのギヤボックス内部が破損した
- 事故機のテールローターは「Pusher」であるため、テールローターの回転軸が破損したギヤボックスを押す力が働き、ギヤボックスを突き破った
- テールローターの回転面が垂直尾翼に接近した(テールローターは、機体の左側から見て時計回りに回転する)
- 付け根のピンの折れたブレード1枚が、垂直尾翼の後ろ側から当たって突き刺さり、テールローターの回転が停止した
当該機の場合、テールローターが回転しなくなると、メインローター回転の反トルクにより機体が左に回転しようとしますが、ある程度以上の前進速度があれば急に機体がくるくると回り始めることはなく、垂直尾翼の効果で何とか飛行を継続することができます。機長は、速度低下しないように注意しながら着陸場所を探し、(反トルクとは逆向きの)右旋回でUターンしてオートローテーションに入れた可能性があります。
テールローターの損傷が、どの時点で 1.~6. のどこまで進んだのかは分かりません。テールローター・ブレードが垂直尾翼に当たったのは、もしかすると墜落直前だったのかもしれません。
どう着陸させる?
オートローテーション降下中は、エンジンとメインローターが切り離されるため反トルクの影響を受けず、山あいの狭い河原を目指して進入するコントロールが、調整できる範囲は限られるものの、ある程度は可能です。しかし、大きな問題は接地操作です。テールローターの機能が失われているときは、あまり減速しない滑走着陸が基本ですが、平坦で長い(広い)滑走路のような場所が必要になり、浅い角度で進入しなければなりません。この河原では非常に困難です。どうしても狭い場所に接地しようとフレアをかけて減速すると機体が回転してしまいます。回転しながらでも水平に接地させるようコントロールしますが、非常に困難な操作です。
実際の状況は複数の方々に目撃されていました。「ヘリ墜落事故 証言でみる墜落の経緯(NHK, 11月9日 18時15分)」によれば、墜落現場から川を挟んでおよそ500メートル離れた広場で、グラウンドゴルフをしていた住民11人は、ヘリコプターが墜落する様子を間近で見ていたそうです。そのうちの1人によれば、山の手前で右に旋回したあと高度を下げ、ドカンという音とともに川にかかる橋の上で火柱が上がったということです。「機体が回転しながら、最後は頭のほうから突っ込んでいった」と話したとのこと。
※ Googleマップに加筆しました(↑)
この証言から考えると、
- 当該機は河原に着陸できないまま事故現場付近まで進み、山に衝突しないようメインローターのピッチ・コントロールで右旋回して高度を下げ、自ずと減速された
- 尾部が持ち上がった姿勢で、機体が左回転を始めた
- 過度のフラッピングが生じ、メインローター・ブレードが機体の尾部に当たって機体が損傷した
- テールローター・ブレードが刺さって損傷していた垂直尾翼は完全に破断した。テールローター全体が(機体の左回転により)川の向こう岸まで飛ばされた
- 機体と回転するメインローターが、橋の上にかかる電線に触れて火花を散らした
- メインローター・ブレードが当たって損傷した尾部が、機体の回転により破断し、橋の下の河原に落下した。
- メインローター・ブレードの1枚(または複数枚)が脱落し川に落ちた(やや下流でブレード1枚を引き揚げたTBS映像がある)
- 道路上に墜落した機体からもれた燃料に電線の火花が引火し、炎上した
という想像が働きます。ただし、この順に発生したわけではなく前後しているでしょう。
※ 過去の航空事故調査報告書(運輸安全委員会)の図に加筆しました(↑)
新たな事実により、前回の投稿(2017.11.10 21:08)内容から考えが少し変わりました。まだ疑問は残りますが、現時点での私の推定はここまで…。
(注)テールローターは、Wikipedia「ヘリコプター」によれば、次のように説明されています。
「ヘリコプターはローターが回転し、揚力を生み出すことで浮遊する。このとき、機体側がローターを回転させることの反作用として、ローターが機体を逆方向に回転させようとするモーメントが生じる。これは反トルク、カウンタートルク、トルク効果などと呼ばれる。
反トルクを打ち消すため、尾部に備えたローター(テールローター)により横向きの推力を生み出し、その推力によるモーメントで打ち消す。機体の回転方向と推力の向きの関係により、プッシャータイプ(テールローターの推進力で尾部を押す)とトラクタータイプ(テールローターの推進力で尾部を引っ張る)がある。」
※ トップの図は、”EUROCOPTER AS332L1 Technical Data” から
<2017.11.25 21:33>
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■■■ ここから、2017.11.26 追記 ■■■
※ 2017.11.9 10:09撮影、毎日新聞【写真特集】より(↑)
※ 2017.11.9 午後撮影、産経フォトより(↑)
テールローターやテール・ギヤボックスの写真と、これらの破断した尾部の写真から、機体の破断部を色分けしてみました。
※ 過去の航空事故調査報告書(運輸安全委員会)の図に加筆(↑)
<2017.11.26_19:40>
コメント
ヘリの操縦は難しいんですね~
bella vitaさん、早速コメントいただき、ありがとうございます。
難しいです。理論で考えると、なおのこと難しく思います。でも、難しいことが少しずつでもできるようになるのが、とても楽しいです。
こんにちわ!ヘリの操縦についてはホバリング一番難しいと思います。
ここはロシアの学生のホバリング練習です。https://www.youtube.com/watch?v=NYC1ulFhidQ
ヘリは横風に弱いです。事故が多いです。例:https://www.youtube.com/watch?v=4ohjhXsdxok
川野さん、コメントありがとうございます。
私もヘリの操縦訓練中に横からの突風でヒヤリとしたことがあります。