雲上にて

高度4万フィートの空はまっ青ですが、下はまっ白べったりの雲に覆われ、地形がまったく見えません。それじゃ、機内誌でも読みますか。

キットカットにコーヒーも

スカイマークに乗ったら必ず目をとおすのは、スタッフや部署を紹介する記事です。いいことしか書いていないようですが私は好きで、欠かさず読んでいます。今月号には安全推進室の紹介がありました。記事の最後は、こう締めくくられています。

うまいこと言うなぁ。まったくそのとおりだと思います。

全員に無料サービスのキットカット、数年前からコレが楽しみです。それと、路線限定らしいけど、今回はコーヒーも無料でした。

到着にはまだ時間があるので、「安全のしおり」でも見てみようかな。ほとんどの乗客は、これを手に取る様子もありません…よね。客室乗務員のデモンストレーションさえ見ていないようですから。

着水

あれっ、と気付いたことがありました。「緊急着水時/EMERGENCY DITCHING」の絵です。最後尾の左右ドアに「×」印、着水した際はこれらのドアを開けてはいけないンですね。なぜだろう?

思うに、機体後部が低くなって沈むから、機内への浸水を遅らせるためでしょうね、きっと。ハドソン川に着水したエアバスA320機が、たしか、そんなふうにお尻が低くなって浸水していました。

機体の重心位置は、主翼下の主脚より前方にあるのに、なぜお尻の方が沈むのでしょう? 地上では前方がやや重いので尻もちをつくことはないのですが、着水するとエンジンが水没してその重量分が大幅に軽減され、垂直尾翼や水平尾翼の重さが相対的に大きくなってお尻が下がる、ということになりそうです。

救命胴衣

着水する場合には、脱出前にライフベストを付けなければなりません。安全のしおりには「救命胴衣/LIFE VEST」として、順を追って着用手順が示されています。

搭乗して全員着席すると、出発前に客室乗務員が手際よく救命胴衣着用のデモをやってくれますから、簡単にできそうに思えます。でも、本当にそうかな? ほぼ満席の機内を想定してみましょう。あなたは3人掛けシートの真ん中に座っています。

まず、座席下から救命胴衣を取り出します。ちょっと探す人もいるでしょうけど、これは簡単にできるでしょう。次に、

  1. 頭からかぶる
  2. ストラップを手に取る

たったここまでの動作を乗客全員が行うまでに、かなりの時間を要します。私がこの訓練を受けた経験では、両側の席に乗客がいる狭い機内で、救命胴衣をしっかり広げて正しい向きでかぶる、という動作だけでもかなり難しい作業でした。何とかかぶることができても、ストラップが長いので絡まったりアームレストに引っ掛かったりと、容易ではありませんでした。脱出開始の目標タイムを大幅にオーバーしてしまった記憶があります。

訓練でさえそんな状況ですから、実際に救命胴衣を着用する場面に直面すると、いかばかりか…。乗客の大部分がわれ先に…という行動になりがちで、落ち着いてやれば早くできることでも、焦る気持ちが妨げになるのです。

緊急脱出

緊急脱出スライドで機外へ。この状況は、救命胴衣の着用よりも遭遇する可能性が高いと言えます。滑り台なんだから難しいことはない、と思っている乗客が多いのでは? これも、やってみなけりゃ分からない難しさがあります。

訓練を重ねている客室乗務員はよく分かっていて、デモやアナウンスで伝えてくれています。いつも真面目にデモを見てアナウンスも聞いている私も、訓練でジャンプしたときは失敗して危うく転倒するところでした。

両手を前に!と言われて、そのようにしますが、腰が引けて寝た姿勢になりがちです。すると着地でボンッと跳ねたときに対応できず、背中から地面に落ちてしまいます。あるいは前のめりになって頭から落ちたりします。公園の滑り台なら硬い材質ですが、緊急脱出スライドはガス圧で膨らんでいるので、その反発力で着地直前に想像以上に跳ね上げられてしまいます。その結果、着地で転倒して骨折する事故が、実際に後を絶ちません。

滑り台ではなくスキーの直滑降と考えましょう。上体を大きく前方(下)へ倒す気持ちで滑り、大きく跳ね上げられることを想定しておきましょう。それでも着地は難しいので、先に下りた人は両側でサポートしてあげて下さい。

ぜひ、体験の機会を

いずれの航空会社でも、安全担当業務の方々はこういうことをよくご存じですが、乗客に伝わっていないのです。乗客の意識を少しでも改善するには、訓練を経験してもらう「体験」が有効だと思っています。

機内誌の記事のとおり、事故で「経験から学ぶ」ことは不可能なのですから、訓練で経験してもらうのです。乗務員や社員だけがどれほど経験を積んでも、実際に脱出する乗客の皆さんに経験してもらわなければ意味がありません。

すでに、さまざまなイベント等で機会が設けられているのかもしれませんが、救命胴衣の着用体験、緊急脱出の体験、酸素マスクの着用体験など、もっともっと増やして欲しいと思います。訓練センターでの体験なら、たとえ有料でも受講したい方も多いのでは? 会社の安全に対する意識を知っていただく機会としても有効でしょう。各社が協力して行うこともできそうです。

安全を捉える

「安全は見えない」(スカイマーク機内誌)、何となくボヤッとした、こんな写真の感じなのかもしれません。

それを、できるだけ具体化していくことが大事なんでしょう。「小さなことほど丁寧に、当たり前のことほど慎重に」(スカイマーク機内誌)、ひとつ一つ積み重ねていくと、この写真のように少しずつハッキリ捉えられるようになってくるのです。

※ 写真はいずれもスカイマークB737-800の機内で、2018年1月、やぶ悟空撮影