アパッチ、墜落!

陸自のAH-64D APACHE LONGBOWが佐賀県内の民家に墜落しました。2月5日夕方のことです。9日午前に4枚目のメインローター・ブレードが発見され、この事故で注目されているメインローターの主要部品がほぼ回収されたようです。

何が起きた?

ドライブレコーダーに記録されていた墜落の状況に加え、メインローター・ヘッドの残骸、離れた場所から回収されたメインローター・ブレードなどから、現時点で考えられることは何でしょうか。

時事ドットコムニュース>写真特集より

報道などから、「飛行中に、メインローター・ヘッドから2枚のブレードが分離した。分離したのは、メインローター・ハブとピッチ・ハウジングの接続部付近」と言えそうです。

ヘリコプターのメインローターは、飛行機では主翼に相当するので、たとえ1枚でもなくなったら飛行を続けることはできません。エンジンが停止しても、メインローターが正常ならオートローテーションで着陸できますが、メインローターそのものが損傷してしまうと、操縦士は為すすべがありません。落下地点をわずかに修正することすら、全くできないのです。墜落場所の民家にいた子供が、負傷したものの無事だったことがせめてもの救いです。

どんな構造?

メインローターの取付部付近は、どんなヘリコプターでもかなり複雑そうに見えます。ヘリコプターの「主翼」を構成する肝心の部分で、強度上もしっかりしているはずなのに、なぜこの部分から分離したのでしょう? それを考えるには、メインローター・ヘッド部の構造を理解しなければなりません。

少し古いのですが、AH-64Dのテクニカル・マニュアル(TM)をネットで見つけました。メインローター・ヘッドの接続や動きは難しいですが、自分なりに色付けしてみました。今回の事故で注目するのは、

  • ピッチ・ハウジング(Pitch Housing Assembly)
  • ストラップ(Strap Pack)
  • フェザリング・ベアリング(Feathering Bearing Assembly)
  • ハブ(Hub Assembly)

このあたりのように思います。この図だけでは分かりにくいので、米軍機の写真を掲載します。超広角レンズで歪んでいますが、ハブとの接続部がよく見えるアングルです。

)http://www.whiteman.af.milより

他のテクニカル・マニュアルの「ローター」に関する記述に、次のような内容があります。
(TM 1-1520-251-10 / Technical Manual Operator’s Manual for Helicopter, Attack, AH-64D Longbow Apache / 29 MAR 2002)

  • 2.90.1 ピッチ・ハウジング
    ピッチ・ハウジングは、フライト・コントロールの動きに応じ、スワッシュ・プレートを介してブレードのピッチを変える。4つのピッチ・ハウジングの中にあるV型ステンレス製ストラップ・アセンブリが、ねじれたり上下に動くことにより、ブレードのフェザリング、フラッピングが可能となり、また、遠心力の負荷も支えている。サイクリックおよびコレクティブの動きは、スワッシュ・プレートにつながるピッチ・リンクによってピッチ・ハウジング・ホーンに伝えられる。フェザー・ベアリングはピッチ・ハウジング内で垂直および水平の負荷をピッチ・ハウジングからハブに伝える。遠心力の負荷は各ストラップ・アセンブリによりハブに伝えられる。(TMの引用ここまで)

「スワッシュ・プレート」や、「フェザリング」に「フラッピング」やらと専門用語が並び、ヘリコプターが飛ぶしくみが分からないと、メインローター・ヘッドの動きが理解しにくいと思いますので、今回の事故に関わりそうな部分だけをごく簡単にお話しします。

  • AH-64Dヘリコプターの主回転翼(メインローター・ブレード)は4枚あり、それぞれのブレード(薄い青色)は、1周する間にピッチ(迎え角)が変化します。
  • ブレードのピッチは、フェザリング・ベアリング(濃い黄色)の軸回りに可変できます。
  • フェザリング・ベアリングはピッチ・ハウジング(薄い黄色)にボルトで固定され、そのピッチ・ハウジングにメインローター・ブレードが取り付けられています。
  • 回転するブレードの遠心力を支えるのは、ピッチ・ハウジングの中に収められている複数枚のV型ストラップ(黄色)です。ストラップは片方がハブに、もう片方がブレードに取り付けられます。

少しはイメージできたでしょうか?

報道写真から

実際に回収された写真を見てみます。

)毎日新聞webサイトより

墜落場所から500メートルほど離れたところで回収されたメインローター・ブレードと、それに付いたままのピッチ・ハウジングとフェザリング・ベアリングです。分離したポイントがよく分かります。ステンレス製のV型ストラップが破断した部分が見えているようです。大きな損傷はないようですが、ブレード後縁から入ったような傷が見えます。他の角度からこの傷を撮影した写真があればいいのですが。

毎日新聞webサイトより

)共同通信webサイトより

墜落現場の残骸から、メインローター・ヘッド部分が回収されました。これら2枚の写真から、ピッチ・ハウジングは4つのうち、2つが無くなっていることが分かります。無くなった2か所に見えている、ステンレスの複数の薄板状のものは、おそらくブレードの遠心力を支えるストラップが破断したものでしょう。

報道によれば、墜落現場から2枚のブレードが見つかったということなので、ハブに固定されたまま残っていた2つのピッチ・ハウジングに付いていたブレードだろうと思います。ピッチ・ハウジングのブレード取付部(リード・ラグ・ヒンジ)に大きな損傷が見られないので、ハブを搬出する際にブレードを取り外したのでしょう。

そうすると、飛行中、2枚のメインローターがピッチ・ハウジングが取り付いたまま、メインローター・ハブから分離したと考えて良さそうです。ドライブレコーダーの画像からも2つの何かが分離して落下する様子が捉えられていました。

空中で分離したもう1枚のブレードは、2月9日午前、現場の東300メートル付近で見つかったそうです。分離した他の1枚と同様、このブレードにもピッチ・ハウジングが付いたままでした。ステンレス製ストラップの薄板複数枚が破断している様子も見えます。

佐賀新聞LiVEより

ブレードを見ると

離れた場所から回収された2枚のブレードの写真を見ると、いずれも前縁には大きな損傷が見当たらないものの、最初に発見された1枚には後縁側に傷のようなものが、そして後から発見されたブレードには、やはり後縁側にしわのような歪みが見受けられます。しわは、ブレードの回転と逆方向の(回転を阻害する)力が加わったことを示しているようです。ピッチ・ハウジングとブレードとの接続部分の損傷に着目した記事も見受けられますが、同様の力が加わったことによるものかもしれません。

ドライブレコーダーの映像では、一定高度を直線飛行しているように見え、急激な操縦操作を行ったようには思えません。メインローター・ヘッド交換後の試験飛行に離陸してまもなくですから、いきなり激しいマヌーバを行うことはないでしょう。つまり、操縦操作によって過大な負荷が加わったり、それによりブレードが機体に当たったとは考えにくいところです。

ブレードの傷や歪みの程度があまり大きくないようなので、主たる事故原因ではなく、ブレードが分離する際にどこかに当たって生じたのかもしれません。ステンレス製ストラップは、複数枚で遠心力を支えているので、一瞬で全てが同時に破断することはなく、わずかな時間差を持って次々に破断していったと考えるのが妥当でしょう。その間にローターの回転が進むので、前後のブレード同士がぶつかってこのような損傷になったのではないでしょうか。

離れた場所で発見された1枚目のブレードが分離したとき、後ろのブレードが分離したブレードの後縁に当たって傷ができ、後ろのブレードは当たった衝撃で歪んだ、と考えられるかもしれません。

原因は?

ブレードが引きちぎられるように分離する状況が、どうしたら起こるのか、想像がつきません。設計上の不具合? これまでの世界中の飛行実績から見て、考えられません。部品の製造上の不具合? 別々の2枚のブレードが分離していることから、それも考えにくいでしょう。直前に行われたという、メインローター・ヘッドの交換整備作業が疑われるのは当然ですが、少なくとも地上で試運転し、離陸後もトラッフィックパターンの一部を飛行して左旋回と右旋回を行っているので、異常な振動などを感じれば直ちに飛行を中止したでしょう。

2人の操縦士は、機体を制御することができないまま民家に向かって落下していく状況を、何とか回避しようと努めたに違いありません。しかし、この損傷状況では為すすべがなく、放物線状に落下するしかありませんでした。ご冥福をお祈りします。

※ 冒頭の写真は、陸上自衛隊HPより引用させていただきました。