新千歳のオーバーラン、調査報告公表

苫小牧では5日間連続した真冬日から、ようやくプラス気温に転じました。こんな冬季の航空機の離着陸には、特段の注意が必要になってきます。

さて、去年の冬のことです。2017年1月19日の昼ごろ、新千歳空港に着陸したDHC-8-402型 <Q400> JA461Aが、滑走路末端をオーバーして雪の中で動けなくなりました。運輸安全委員会が重大インシデントとして調査し、1年1か月たった2月22日に調査報告書を公表しました。

)苫小牧民報(2018年2月22日)の記事

発生直後に私が考えたことを思い出してみます。そのころは「やぶログ」開設前だったので、他のwebサイトに私の考えを投稿しました。今は閉鎖されているので、こちら「Q400スタックの原因を考えてみた」2017/01/26 18:00の投稿、やぶ悟空>のpdf(1.35MB)でご確認ください。

当時は主に「スピード」と「路面状態」に着目したので、私の投稿と調査報告書の内容を比較してみます。また、調査報告書から新たに分かった要因についても検討してみます。

スピード

私は報道された監視カメラの映像から、滑走路01Rの終端(北側末端)付近の対地速度を「約23kt(約42km/h)」と推算しました。

調査報告書では、「GS約20ktで滑走路末端を通過し、」(3ページ23~24行、「GS」は対地速度)とされ、「付図1 FDRの記録」を見ると、確かに20ノットかそれ以上と読み取れます。

スピードに関しては、ほぼ推算したとおりだったことになります。

路面状態

発生3時間前のS/I(Snow and Ice)コンディション計測データ「Good」が提供されていたことを指摘し、その間に滑走路の状況が(悪いほうに)変化していた可能性をにおわせながらも、限られた情報だけでは特定できない、としました。

調査報告書では、「ブレーキ圧が最大となっていた間の滑走路及び過走帯の摩擦係数は、0.19と算出され、ブレーキング・アクションのMediumに相当する値であった。」(6ページ最下3行)と記されています。また、場所によって路面状況がかなり異なることも写真2、写真3(いずれも5ページ)で示されています。

着陸には支障ない路面状態であったものの、滑走路終端付近は提供されていた値より2段階悪い、より滑りやすい路面状態だった可能性が強いと言えます。

その他の要素

機首方位の変化

監視カメラの映像から機首方位が変化していることに気付き、「はじめ左に向いたのはパイロットの操作によるものでしょう。停止直前の右方向への変化は、パイロット操作かもしれないし、積雪による左右主脚の抵抗差かもしれません。」と考えていました。

調査報告書では、「過走帯灯を避けるため、左方向にペダル及びステアリング・ハンドコントロールを使用した。」(3ページ20~22行)とのことです。「付図1 FDRの記録」に示されている「Magnetic Heading (deg)」を見ると、いったん機首方位が左に約20°変わった直後、右に約40°向きを変えて停止しました。まぁ、発生原因には関係ないンですが。

自機位置の確認

滑走路を走行中、自分の位置を正しく認識していなかったのでは? 滑走路末端は見やすい状態だったか? 地吹雪などはなかったか? 滑走路距離標識や出口の誘導路標識は見える状態だったか? その周囲は除雪されていたか? などの疑問を持っていました。

調査報告書では、「機長が、制動を開始した誘導路B3を誘導路B4と思い違いした」(8ページ最下行)としています。つまり、ブレーキをかけ始めるのが遅れたことを意味しています。しかし、なぜ「思い違いした」のかについては触れられていません。2.6の気象を見ると、「卓越視程」は「10km以上」ありますが「弱いしゅう雨性の雪」(4ページ)となっています。操縦士の話には滑走路の先がどのように見えていたのか、書かれていません。また、標識類を見なかったのか、見えなかったのか、さらに標識周辺の除雪状況の記述もなく、私の疑問は解消されていません。

心理的な要素

着陸後は早めに滑走路を空けたいと思うがため、あまりゆっくりした速度で地上走行するのではなく、安全な範囲内で走行速度を上げたいという心理が働いたのでは?と指摘しました。

調査報告書では、「滑走路1本の運用であることを考慮して、同機の制動を遅らせ、滑走路を速やかに離脱しようとした。」(2ページ28~29行)とし、「機長は、滑走路末端の誘導路B2で滑走路から離脱するように指示されていたため、同機の制動を遅らせようとした」(7ページ、3.4 (4) )と推定しています。

このことは重要で、やはり…という思いです。新千歳空港のように、通常時でもトラフィックが混雑しがちな空港なのに、雪で滑走路1本がクローズ中…となると、滑走路占有時間を長くしたくないと思うのは自然でしょう。この時は、以下に述べる要因とも重なってしまったようです。

他の大きな要因

調査報告書から、当時報道された情報では知りえなかった大きな要因があったことが分かりました。それは、機長のパワーレバー操作です。

規定(6ページ、3-9-3)では、接地後、パワーレバーをフライトアイドル位置にした後、さらにディスク位置まで引いてブレーキをかけ始めることになっています。3.4 (4)では、「機長は、着陸後、パワーレバーを(略)約42°の位置に移動させ」た状態で「既にフライトアイドル位置にあるものと思い違いした」(7ページ)としています。

フライトアイドル(35°、図2 PLA)とは、自動車が走行中、オートマのギヤが「D」に入ったままアクセルから足を離したような状態です。プロペラのピッチは前進の推力を持った状態なので、接地後ある程度までは減速しますが制動力にはなりません。この場合では約42°の位置にあったということなので、アクセルを少し踏んだまま進んでいたことになります。

本来なら、プロペラが回転しても推力を発生しないディスク位置(20°、図2 PLA)、つまり、自動車のギヤをニュートラルにしてアクセルから足を離したような状態、にしなければならなかったのです。そうすれば、少なくとも前進する推力はなくなります。「機長がパワーレバーは既にディスク位置にあるものと思い違いした」(7ページ、下から7行目)とされています。

疑問

ここで疑問が起こりました。

  • 「既にフライトアイドル位置にあるものと思い違いした」
  • 「既にディスク位置にあるものと思い違いした」

機長は、この両方の操作をしないまま「思い違いした」ことになりますね。う~む…。

「機長は、接地後、パワーレバーをフライトアイドル位置にしたと記憶している。」(2ページ図1の下7~8行)、さらに、「機長は、いずれかの時点でパワーレバーをディスク位置にしたと記憶している」(2ページ、下から7~6行)と書いてあり、「付図1 FDRの記録」を見ると、接地直後にちょっとだけ(45°から42°に)パワーレバーを絞ったものの、いわば自動車のDレンジでアクセルを少し緩めただけで、滑走路を進んでいたことが分かります。同じグラフで対地速度:Groundspeed (kt)を見ると、徐々に減速はしているものの速いような気もします。フライトアイドルにいれた時点でまだ60ノット(111km/h)近い速度ですから(11時57分23秒に誘導路B3を約56kt(104km/h)で通過、2ページ下から5行目)。でも「副操縦士は、60ktをコールした時にも、オーバーランすることなく止まることができると思っていた」とのことで、さほど速いとは感じていなかったようです。

パワーレバーが「約5秒間かけて、フライトアイドル位置にゆっくりと移動していた」(2ページ下から4行目)ことなどを考え併せると、機長は滑走路占有時間を短くするため、「思い違い」ではなく「意図的に」フライトアイドル位置にせず、地上滑走を続けたと見るのが妥当のように思います。指示されたB2出口まであと500メートルほどのB3付近で、機長がゆっくりと(落ち着いて)フライトアイドル位置に操作したが、その先の滑走路状態が思いのほか悪かったため、「ブレーキが効く感覚が全くなく、最大のブレーキ圧で踏み込んだが、それでも減速感が得られない」(3ページ3~4行)状態だったということでしょう。このときは、パワーレバーをまだディスク位置にしていないことを忘れるほど、焦りの気持ちが生じたのかもしれません。

FDR記録から見る路面状態

「付図1 FDRの記録」を見ると、機長がパワーレバーをフライトアイドル位置にしたのが11時57分29秒、その直後の同30秒からブレーキ圧「Brake Pressure Left/Right (psi)」が少しずつ上昇し(つまり、機長が車輪ブレーキをかけはじめ)、それに応じた減速が始まっていたことが「Longitudinal Acceleration (G)」(機軸方向の加速度/減速度)と「Groundspeed (kt)」の傾きから読み取れます。

ところが、10秒後の同40秒、「Longitudinal Acceleration (G)」(機軸方向の加速度/減速度)が約-0.2Gから急激にゼロに戻っています。つまり、減速の度合いが急激に弱まったのです。このとき、パワーレバーはフライトアイドル位置で変化がありませんが、ブレーキ圧は徐々に上昇して(ブレーキを徐々に強くかけて)いました。付図1の記録項目だけで判断すると、車輪が滑り始めたと考えるのが妥当でしょう。同40秒から5秒ほどの間、左ラダーペダルを踏んでいる「Rudder Pedal Position (deg)」にもかかわらず、機首は右を向き始めていること「Magnetic Heading (deg)」からも、そう言えそうです。

同40秒からオーバーランするまでの18秒ほどの間の「Longitudinal Acceleration (G)」(機軸方向の加速度/減速度)の細かな変動は、雪氷上で滑り続けながら摩擦係数が細かく変化していたことを示しているように思えます。フルブレーキをかけている同50秒ごろからは、滑りながらも機首方位を左に向けたようです。ラダーペダルのグラフが変化していないので、ステアリング・ハンドコントロールによる操作でしょう。

場所により、時間により、滑走路面の状態は変化しています。やはり、発生当時の滑走路終端付近の路面は、かなり滑りやすい状態だったと言えそうです。

まとめ

ひとことで言えば、直接の原因は滑走路出口付近の走行速度が速すぎたことでした。そうなったのは、機長がブレーキ操作を始めるのが遅かったから、です。調査報告書の「4 原因」では「制動の開始が遅れた」と記されています。ブレーキ操作の前に、規定どおりパワーレバーをディスクにしておかないと前進の推力が残り、減速効果が薄れてしまいます。

滑走路から早く離脱しようという、後続機や管制官を思いやる気持ちが裏目に出てしまいました。後続機にしてみれば、管制指示に従って間もなく着陸というところまで接近しているのに、先行着陸機がなかなか滑走路から出ず、ゆっくり地上滑走している状況で、ゴーアラウンドしなければならなくなるのは、やむを得ないとはいえ、少しばかり負担が大きく感じます。管制官にしても、上空待機の指示を出しつつ着陸機が連なっている状況で、除雪の都合上、着陸滑走距離が短くて済むターボプロップ機でも滑走路終端まで地上走行させなければならないもどかしさがあることでしょう。

操縦士も管制官も、また他のスペシャリスト達も、最善・最適な運航を目指していることに違いはないのでしょうが、それらが必ずしもうまく回っていくとは限らないということでしょうか。

機長は、総飛行時間1万5千時間を超える超ベテランです。つまり、誰にでも起こりうることだということを肝に銘じておくべきなのでしょう。私も自動車の冬道運転、より一層気を付けようと思います。

※ 略語

  • FDR:Flight Data Recorder、飛行記録装置
  • GS:Ground Speed、対地速度
  • PLA:Power Lever Angle、パワーレバーの角度
  • S/I:Snow and Ice

※ 我が家のシクラメン、2018年2月23日、やぶ悟空撮影