苫小牧と情報収集衛星(その2)

引き続きカタい話で恐縮ですが、2回目は地球局と衛星の軌道、それとデータ中継について考えます。

地球局

人工衛星を「宇宙局」といいます。宇宙局と通信するための地球側の施設を「地球局」といいます。電波法や関連規則ではそうなのですが、内閣衛星情報センターでは「地球局」という言葉は使っていないようです。

内閣衛星情報センターの概要(平成29年4月現在)より

情報収集衛星システムは「内閣衛星情報センター」が運用しており、その地球局は国内に次の4か所あります。

  • 中央センター:東京都新宿区市谷本村町(いちがやほんむらちょう)
  • 副センター:茨城県行方市(なめがたし)三和(みわ)、および長野江(ながのえ)
  • 北受信管制局:北海道苫小牧市(とまこまいし)静川(しずかわ)
  • 南受信管制局:鹿児島県阿久根市(あくねし)鶴川内(つるかわうち)、および山下(やました)

中央センターは市ヶ谷の防衛省敷地内にあるんですね。Googleマップで見ると、屋上に3つの白い衛星通信アンテナが見えます。

)新宿区市谷本村町の防衛省(Googleマップ)

大きめの2つは反射鏡の直径8メートルほどで、他の地球局のような球形ドームのカバーはありません。

)中央センター屋上にある3つの地球局アンテナ(Googleマップ)

この建物の正面に「P大臣官房」と描かれた駐車スペース5台分が見え、特に重要な建物であることを裏付けているようです。

)新宿区三栄町から見たGoogleストリートビュー

ビルの屋上とはいえ、大都会のど真ん中に置かれた地球局は、通信環境の面で決して好ましくはないですが、重要な撮像データに関しては、地上ネットワークや専用回線すら介すことなく、衛星から中央センターに直接ダウンリンクさせたいということなのかもしれません。

他の地球局(苫小牧、行方、阿久根)については、次回以降に紹介する予定です。

軌道

「関心対象」の情報を収集するには地球表面に近い、低高度の軌道がいいですね。そして地球を南北に回る(太陽同期準回帰)軌道に投入すると、周期的に同じ場所の上空を同じ時間帯に通過することができ、観測に都合がいいのです。この縦回りの軌道を1周するのに1時間半ほど要します。

内閣衛星情報センターのロゴマークを見ると、2本の極軌道が交差しています。当初の予定どおり衛星4機(レーダ衛星2、光学衛星2)で運用するとなると、これが理想的でしょう。ただ、衛星の軌道高度はこのロゴマークとは違って、もっともっと地球表面に近くなります。

)巨大メロンのように見えるアンテナドームを地球に見立て、情報収集衛星の軌道高度を同じ縮尺で描いたもの。ずいぶん地球に近いところを回っていることが分かります。

軌道高度は公表されていませんが、常識的に考えて地球観測衛星なら500km程度(400~600kmとも)でしょう。あまり低いと軌道維持のための燃料消費が多くなり、寿命が短くなってしまいますから…。地球の半径が約6,400kmなので、果物の皮をむくようなイメージで地球すれすれの軌道を回っていることになります。すると、日本にある地球局からこれらの衛星が見える(直接通信ができる)時間が非常に短い(数分~十数分)ことにお気付きでしょう。少しでも衛星との通信時間を長くするために、日本の北と南に地球局を配置する方がいいですね。それが北海道苫小牧市と鹿児島県阿久根市が選ばれた理由の一つでしょう。それでも画像データを受信できる(衛星が日本上空付近を通過する)頻度はそう多くないため、「データ中継衛星」を投入することにしたのでしょう。

データ中継

データ中継衛星を使うとどれぐらい便利になるのか、図を描きました。地球の大きさと衛星の軌道高度を同じ縮尺にしてあります。データ中継衛星は静止軌道に投入する(ハズな)ので、赤道上空で地球半径の約5.6倍ほどの高度になります。静止軌道って、以外に遠いでしょ。情報収集衛星の軌道の詳細は知りませんが、図ではとりあえず2種類の極軌道として4機のIGSを適当に配置し、番号を付けました。

)ベースの図にはGoogleEarthを使用しました

地球局4局は日本国内にあるので、この図で地球局と直接通信ができるのは上空付近を通過中の「IGS-1」だけです。南半球を通過中の「IGS-2」は日本の局と直接通信はできません。でも静止軌道にデータ中継衛星を配置すると、「IGS-2」→「データ中継衛星」→日本の「GES」という経路でデータを送受信することができます。データ中継衛星1機は地球表面積の半分近くを見通すことができるので、IGSがその範囲内にあればセンターは撮像データを直ちに入手できるようになります。

データ中継衛星の見通し範囲外を通過中の「IGS-3」や「IGS-4」は中継ができないので、海外の地球局を使うことになるのかな。2機予定されているデータ中継衛星は、不具合発生時のバックアップの意味が大きいでしょうが、静止軌道の離れた位置にうまく配置できれば中継できる可視範囲が拡がって有利になります。そうは言ってもデータ中継衛星の静止軌道配置は、もちろん日本から見える位置でなければならないので、海外局の協力がないまま地球全体をカバーすることはできません。

※ 最初の写真は、苫小牧市にある北受信管制局(地球局)、平成30年3月10日、やぶ悟空撮影

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略語

  • GEO : Geostationary Earth Orbit(静止軌道)
  • GES : Ground Earth Station(地球局)
  • IGS : Information Gathering Satellite(情報収集衛星)
  • LEO : Low Earth Orbit(低軌道)