苫小牧と情報収集衛星(その4)

最終回は、茨城の「副センター」と鹿児島の「南受信管制局」です。苫小牧以外の地球局には行ったことがないので、とても便利なGoogleマップとストリートビューで、旅費をかけずに探してみることにします。

副センター(茨城県行方市の地球局)

)地理院地図をベースに使用

東京駅から北東に80kmほどの地点、太平洋(鹿島灘)に近い北浦の北部に、Googleマップで「内閣衛星情報センター副センター」と表示される場所がありました(苫小牧の北受信管制局にはこういった表示は出ませんが…)。局舎と球形ドーム2つが見えます。解像度チャートのようなものや太陽光発電パネルもあります。

)内閣衛星情報センターの副センター(Googleマップをベースに使用)

)副センター(Googleストリートビュー)

)副センター敷地内にある解像度チャートらしきもの(90°)と、わずかに傾けた白黒パターン(Googleマップ)

球形ドームから南に約400メートル離れたT字路付近に鉄塔が立っており、2つの球形ドームの方向を向いたアンテナ2個ずつ計4個が鉄塔上部に設置されています。これらはアンテナのコリメーション用と思われます。

※ 「コリメーション」とは、衛星を正確にポインティングして追尾できるよう鋭い指向特性を持つ地球局アンテナ装置の性能を検証することをいいます。

)コリメーション塔(Googleストリートビュー)

)コリメーションアンテナは球形ドームそれぞれの方向を向いている。トゲトゲは避雷針かな。(Googleストリートビュー)

新宿の中央センターと茨城の副センターは、その名前から言って主局と副局ですね。バックアップ体制がとられているのでしょう。それにしても気になるのは「中央センター」って名前。意味かぶってるし、英訳しにくいよね。そういや「副センター」ってのも変かも。

南受信管制局(鹿児島県阿久根市の地球局)

)地理院地図をベースに使用

鹿児島駅から北北西に約60km地点、東シナ海に面する阿久根市に、やはりGoogleマップで「内閣衛星情報センター阿久根受信管制局」と表示される場所が見つかりました。

)内閣衛星情報センターの南受信管制局(Googleマップをベースに使用)

苫小牧や行方の地球局にもある同じ大きな球形ドーム2つに加え、少し小ぶりの球形ドームが1つ見えます。ストリートビューだと3つのドームがよく見えています。

)東のアンテナドーム、苫小牧地球局のドームとは構造が異なっています。北海道では雪を、鹿児島では台風を考慮してのことでしょう。(Googleストリートビュー)

)3つの衛星通信アンテナ。太陽光パネルは大林組の阿久根桑原城太陽光発電所(Googleストリートビュー)

解像度チャート(のようなもの)やパターンも見えますが、コリメーションタワーは見当たりません。

)15本の白線が見える(90°の)解像度チャートらしきもの(Googleマップ)

)整列した白の長方形2個と青の正方形1個のパターン(Googleマップ)

アンテナコリメーション用のタワーを探したところ、ずいぶん離れた山中(阿久根市山下字坂元)に見つけました。きっとコレに違いない! 南受信管制局の南東方向ちょうど6kmの地点です。これぐらい離れるとパラボラ反射鏡の位相差を気にしなくていいでしょう。

)コリメーション施設(Googleマップをベースに使用)

地球局の配置と役割

関東エリアの中央センターと副センターに加え、北海道と鹿児島に地球局を配置するのは、すでに(その2)で説明した極軌道衛星との通信時間を少しでも長く確保する意味合いのほか、雨などで衛星通信に使用する電波の減衰が大きい悪天候時の対策でもあります。もし阿久根の地球局が豪雨で、あるいは苫小牧の地球局が大雪で、それ以外にも自然災害などで通信不能になった場合でも、お互い補い合えますから。全ての地球局が使えなくなる可能性は非常に低いと言えます。衛星との通信周波数は知りませんが、中央センターの反射鏡サイズから見て、降雨減衰が大きいKu/Kaバンドなども使われている可能性がありそうです。

衛星の軌道制御や姿勢制御についてはここまで触れませんでした。一般に、人工衛星の状態を常に監視するテレメトリ、地上から衛星に指令を送るコマンド、正確な軌道を把握するためのレンジング(TTCまたはTCRなどという)には、撮像データの通信とは別の周波数とアンテナが必要です。4か所の地球局に2つずつ設置されている大きなアンテナの1つは、このTTC(TCR)アンテナでしょう。もう1つが撮像データ受信用のアンテナですね。

また、人工衛星が何らかの不具合で姿勢を喪失した時のバックアップ通信手段も必ず確保しています。その際に使用するアンテナが、中央センターの小さいアンテナと、もう一つ阿久根地球局の真ん中にある小さめのアンテナドームじゃないかと思います。

おわりに

ここまで4回にわたって我が国の情報収集衛星システムについて考えてみました。ソースはすべてネットから「情報収集」し、特に苫小牧の地球局には実際に足を運んで見てきました。外観だけですが…。

北朝鮮のみならず、中国も米国もロシアも…と、何かとキナ臭い話題に事欠かない昨今です。おっと、そこに日本も含まれるかもしれません。世界からあまり信頼を得られていないように見受けられる為政者たちが、自己都合で熟慮不十分なまま不適切な判断を下し、多くの国民が望まない方向に舵を切ってしまう可能性が否定できないように感じます。

あまり考えたくはないのですが、いざ有事の際には防衛の目となる航空レーダー施設だけでなく、事実上の偵察衛星といわれる情報収集衛星の地球局施設も高い優先順位で攻撃対象になるだろうと想像できます。特に苫小牧地球局の場合は石油備蓄基地と隣接しているリスクもあり、防衛上の不安は大きいような気がしています。

単なる私の杞憂に終わればいいのですが…。

※ 最初の棒グラフは、内閣衛星情報センター「情報収集衛星予算の推移」資料から抜粋、数値の単位は「億円」です。黄色の「維持費」に比べ、オレンジ色の「衛星開発費」が毎年の予算の大部分を占めていることが分かります(青色は補正予算です)。ざっくり言うと、特別仕様の超高級車を次々と購入して、5年(衛星の寿命)で廃車にしているようなものです。大多数の日本国民は気付いていませんが、きっと、その費用に見合った「安全」を得ているハズですよね。この衛星システムの運用を維持していくには、このように莫大な経費がかかっているのです。

最後に、こちら()に分かりやすい説明があるのでご紹介し、「苫小牧と情報収集衛星」の話題を終えることにします。

NHKサイエンス特集 新・科学の世紀「日本の情報収集衛星ってどんなもの?」2018.02.26

略語

  • TCR : Telemetry, Command and Ranging
  • TTC : Telemetry, Tracking and Command

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  こちらの記事(2018年9月21日)もどうぞ。