釧路レーダー、小型に

釧路にある航空管制用レーダーのアンテナが小さくなりました。傍を通って気付いたのでレポートします。

比べてみる

まずは写真をご覧ください。釧路と中標津を結ぶ国道272号線沿いの、釧路町と標茶町との境界付近の峠にあります。

)今月の釧路レーダーと2年前の釧路レーダー、やぶ悟空撮影

球形の緑色レドームがグッと小さくなったことが分かりますね。レドーム(radome)というのはレーダーアンテナを保護するドームのこと。それが小さくなったということは、これまで使っていた(たぶん15メートルほどもある)大型のアンテナが撤去されたのでしょう。どんなところが変わったのか推測してみます。

航空路監視レーダー

航空管制の分野ではいろいろな種類のレーダーを使っていますが、大きく2つに分類することができます。ひとつは、飛行場の管制官が周辺の航空機だけを見るための飛行場管制用のレーダー、もう1つは、見通しの良い場所に設置して遠くの航空機まで見るための航空路管制用のレーダーです。

北海道には航空路管制用のレーダーが2か所に設置されています。函館近郊の山頂にある横津岳レーダーと、釧路近郊にある釧路レーダーです。いずれも最大で半径200ないし250海里(約370ないし460km)までの航空機を見ることができます。釧路レーダーは、正式には「釧路航空路監視レーダー」といいます。

※ 横津岳レーダーについては、「横津岳、アンテナ散策1」をご覧ください。

なぜ小さくできた?

アンテナが小さくなった理由を知るために、少しばかり技術的なことに触れますがご勘弁ください。

これまで航空路監視レーダーは、ARSRとSSRという2種類のレーダーを組み合わせて使っていました。そのため、「釧路ARSR/SSR」などと記載することもあります。

  • ARSR:Air Route Surveillance Radar(航空路監視レーダー)
  • SSR:Secondary Surveillance Radar(二次監視レーダー)

SSRを「二次…」って言うぐらいですから「一次…」もあります。一次監視レーダーはPSR(Primary Surveillance Radar)といい、レーダーから発射した電波がターゲット(航空機)に当たって反射してきた電波をレーダーが受信して、ターゲットの方位と距離を検出する方式のことです。ARSRはこの一次レーダーであり、見える範囲の広い(200海里、約370kmまで)長距離レーダーです。航空機の方位はレーダーアンテナの向きで、距離は電波が往復する時間から求めますが、ARSRでは飛行高度が分かりません。しくみが単純で航空機側には何の装備も要りませんが、遠くの飛行機からの反射電波を受信するには、大きなアンテナを使った大電力送信と高感度受信が必要です。

一方、二次監視レーダー(SSR)は、レーダーが発射した電波を航空機がいったん受信した後、航空機から再び発射した応答電波をレーダーが受信する方式です。航空機に受信と送信のためのSSRトランスポンダが必要ですが、航空機からの応答電波に飛行高度のほか様々な情報をのせることができ、250海里(約460km)まで見ることができます。

ARSRとSSRを組み合わせていたのは、お互いの利点を活かし欠点を補うためです。航空機の方位はARSRから、距離と飛行高度はSSRから得られた情報を使っていました。航空管制用レーダーとしては、航空機から飛行高度の他にもさまざまな情報が得られるSSRはとても都合がいいので、欠点だった方位精度の改善に取り組み、モノパルス測角方式で必要な方位精度を実現したのです。また、航空機側のSSRトランスポンダも低価格化して装備義務化しやすくなり、ARSRが設置されないSSRだけの長距離レーダー(ORSR:洋上監視レーダー)が使われるようになったのです。

アンテナ

)今月のレドームと2年前のレドーム、やぶ悟空撮影。2年前のレドームサイズを赤色点線で示しました。ロープはレドームに付着した雪を落とすためのものです。

釧路レーダーのレドームの中に、以前はこんなアンテナが入っていました。

国土交通省のwebサイトより。ARSRは大電力で送信するのでカメラが誤作動し、電波を止めた状態でなければ撮影できません。人体にも良くなさそう。

赤い大きな反射板が10秒間で1周するように時計回りで回転します。専門的にはコフィード(複合給電)方式という、ARSRとSSR共用のアンテナです。

小さくなったレドームの中には、ORSRと同じモノパルスSSRアンテナが入っているはずです。たぶん、こんなイメージでしょう。

)国土交通省のwebに写真が見当たらないので、TELEPHONICSのwebサイトから引用させていただきました。

レドームに収めるのがSSRアンテナだけなので、半径250海里(約460km)のカバレージでもこんなに小さくできたのでしょう。レーダーで見える範囲をレーダー覆域(カバレージ)といい、国土交通省のwebに図示されています(5年前の古い情報のままですが…)。

国土交通省のwebサイトより

日本の大部分が二重化され、どこかのレーダーが故障したり点検整備するときでも管制上困らないようになっています。ORSRはアンテナも二重化されていますが、釧路レーダーの新しいアンテナは1個だけです。アンテナ駆動部など日数を要する定期整備のときはレーダーの運用を止めるのでしょうか?ちょっと心配です。

おわりに

釧路レーダーのすぐ近くには、こんな鉄塔が建っています。

)2年前の鉄塔、2016年3月20日、やぶ悟空撮影

てっぺんにある白くて丸いものは、レーダーデータなどを釧路市内まで伝送するマイクロ波のアンテナです。今月通りがかったときは、クレーン車がアームを延ばしてこのアンテナを撤去しているように見えました(写真はありません)。以前は、こんな山の中から大容量のレーダーデータを伝送する手段がマイクロリンク以外になかったのですが、昨今では光ファイバーが張りめぐされ、お役御免になったのかと想像します。

中段と下段の踊り場には、航空無線通信用のアンテナが周波数ごとにたくさん設置されています。短いのがUHFで、長めのがVHFのアンテナです。中段が受信アンテナで下段が送信アンテナでしょう、きっと。

レーダー画面上で航空機を監視しながら、これらの無線を使って航空機と交信するのは、札幌航空交通管制部の管制官です。空の安全を守るためのさまざまな設備が、思いがけずあなたの身近なところにあるかもしれませんよ。

※ 横津岳レーダーについては、「横津岳、アンテナ散策1」をご覧ください。

※ はじめの写真は、釧路レーダーとマイクロ波鉄塔、2016年3月20日、やぶ悟空撮影

略語

  • ARSR:Air Route Surveillance Radar(航空路監視レーダー)
  • ORSR:Oceanic Route Surveillance Radar(洋上監視レーダー)
  • PSR:Primary Surveillance Radar(一次監視レーダー)
  • SSR:Secondary Surveillance Radar(二次監視レーダー)
  • UHF:Ultra High Frequency(極超短波)
  • VHF:Very High Frequency(超短波)

コメント

  1. イカゴロ より:

    さすがにレーダーの専門家ですネ。興味深く拝見させていただきました。マイクロ波のアンテナはお役御免とのこと。横津も同様に光ファイバーなのでしょうか?

    • やぶ悟空 やぶ悟空 より:

      横津岳レーダーはどうなっているのでしょう? 最重要レーダーなので、ARSR/SSRのまま維持したいところですが…。今年は横津岳に行ってみたいと思っています。