千歳と鵡川のVOR/DME

4月、千歳VOR/DME(CHE)の近くを通りがかりました。まだ木々の葉が生い茂る前だったので、外からちょっと覗かせていただきました。()こちらは5月の鵡川VOR/DME(MKE)です。

VOR/DME って?

読み方は「ヴィオーアール・ディーエムイー」とそのままでかまいません。長いので「ボルデメ」と言うことも多いようです。でも、この短縮形は海外では通じないので注意。

VOR/DMEは、航空機が飛行するときに使う電波を発射する地上施設の一つです。

  • VOR」は「VHF Omnidirectional Radio Range」の略で「超短波全方向式無線標識施設」のこと、そして
  • DME」は「Distance Measuring Equipment」の略で「距離測定装置」のことです。

(英語表記は ICAO Abbreviations and Codes <Doc 8400>から、日本語表記は航空法施行規則第97条から引用)

これら2種類の装置を1か所に配置した施設が「VOR/DME」です。日本語でも何のことか分かりにくいですね。理屈はともかく、とりあえず

  • VORの電波から、方位を知る
  • DMEの電波から、距離を知る

ことができると思っていただければ結構です。VORから(へ)の「方位」とDMEから(へ)の「距離」が分かれば、飛行中の航空機は自分の位置が分かります。そのために、これらを併設しているのです。

とっても分かりにくいけど、国土交通省航空局の説明と図はこちらに。

外観

苫小牧市はウトナイ湖の近く、国道36号から少しだけ奥に入った位置に「千歳VOR/DME」があります。木々の陰になるので国道からは全く見えません。

)フェンス越しに見たカウンターポイズ(直径50メートルの円盤状の建造物)。VORとDMEのアンテナはこの上に設置されていますが、この位置からは見えません。

)少し低い位置に千歳VOR/DME局舎がありました。VORやDMEの装置本体や電源設備などが入っているはずです。

)カウンターポイズと局舎の位置関係。通常はカウンターポイズの真下に局舎を配置します。この配置だと、アンテナまで100メートルもケーブルを引き回すので、給電ロスがずいぶん大きいだろうと思います。

プレートには「D-VOR/DME」とあります。「D」はドップラー(Doppler)VOR [D-VOR] であることを意味しています。ドップラー方式でないVORをコンベンショナル(Conventional、従来型の、標準型の)VOR [C-VOR] などと言いますが、国内では何十年も前に消滅したンじゃないかな。(D-VORの優位性など技術的な内容は省略)

VORとDMEは、どちらも航空保安無線施設の一種(航空法施行規則第97条)です。敷地内への立ち入りは禁止され、周囲はフェンスで囲われています。

)入口のゲートと警告表示

)VOR電波を監視するモニターアンテナ。原則、120°等間隔で3方向に設けられます。コース誤差などが許容値を逸脱すると電波の発射を自動的に止めるしくみになっています。

アンテナ

千歳VOR/DMEのアンテナが見えないので、むかわ町にある鵡川VOR/DME(MKE)で観察してみます。

)離れた場所からだと、カウンターポイズの上に並んでいるマッシュルームのような多数のアンテナ(VORアンテナ)と、真ん中に1本立っているアンテナ(DMEアンテナ)も見えます。(2017年1月撮影)

)アンテナ群(2018年5月撮影)

オレンジのカバーの中にVORアンテナ(水平偏波で無指向性のアルフォード・ループ・アンテナ:※1)が1個入っています。マッシュルームが尖っているのは積雪対策です。私は白色しか知りませんでしたが、雪が付着しにくい塗料のオレンジ色なのかもしれません。また、カウンターポイズは格子状のグレーチングであることが、その影から分かります。

真ん中に立っているDMEアンテナは単なる棒状のものではなく、中に複数のアンテナ素子が縦に並んでいます。鳥の糞で白く汚れていますね。

)VORモニターアンテナ(2017年1月撮影)

鳥といえば、VORのモニターアンテナは昔から鳥害に泣かされています。仰々しい鳥よけが、妙に複雑な構造のアンテナのようにも見えますね。

アンテナ素子に鳥がとまるとレベルが変動し、監視装置がVORの不具合と判断してしまうのです。すると自動的にVOR予備機へと切り替わり、それでも回復しない場合はVORがシャットダウン(停止)してしまいます。信頼できない電波を航空機が使用しないようにするための仕組みなのですが、賢いカラスもそこまでは理解してくれません。

鳥よけを除くと単なる八木アンテナだと分かります。真ん中が太いのは積雪対策のカバーが付いているせいで、放射器はその内部に収まっています。

)千歳VOR/DME(ベースにGoogleマップを使用)

地上からの写真だけではアンテナの配置が分かりにくいので、上からも見てみます。Googleマップの画像に書き加えました(薄青色)。カウンターポイズの直径は50メートル、その中心にVORの基準信号アンテナがあります。その回りに50個の可変信号アンテナが、たぶん直径13.5メートルの円周上に並んでいます。3個のモニターアンテナが040°、150°、270°方向に配置されているようです。あれっ? 120°等間隔なら040°ではなく、030°のはずなのに…、これもアリなのか。VORで使用する方位は磁方位(MN基準)なので、真方位(TN基準:地図の北)から西に約9°ずれています(地磁気偏差値は場所により異なります)。

森の中に、こんなUFOの巨大な円盤のような不思議な施設があるなんて、奇妙ですよね。カウンターポイズやアンテナ配置の理由など、もし興味のある方はご自身で調べてみて下さい。でも、理解するにはかなりの無線の知識が必要です。円周上に配置されたVORアンテナが全方位に指向性ビームを出す…などと誤解された内容の記事がweb上で散見されましたが、それは明らかに誤りです。十分ご注意ください。

※1:こちら(Modificaion of Standard Alford Loop Antenna for use on Doppler VOR, Feb.1961, FAA)に、アルフォード・ループ・アンテナの図があります。

※ Googleマップ以外の写真はいずれも、やぶ悟空撮影