浄水場とパラボラ

水道週間には浄水場が見学できるそうなので、日曜日に出かけてみました。そこで見かけた大きなパラボラアンテナ、いったいこれは何だ?

浄水場

苫小牧市には「高丘」と「錦多峰」の2か所に浄水場があり、それぞれ取水する川が異なっています。「錦多峰」は「にしたっぷ」です。読めませんケド…。この浄水場まで自転車で約40分、ちょうど喉が渇いたところへ本日できたてのおいしい水を1杯いただきました。意外に見学者が大勢いらっしゃっていました。

)錦多峰浄水場の入口

)水質監視役、24時間仕事中!

もう1か所の高丘浄水場は森の奥に入ります。

)高丘浄水場

)高丘の地下の配水池

水面に波が立たないので完全反射、水位3メートル73センチ。この水が家庭の蛇口まで届きます。

)おいしい「とまチョップ水」は、ここ高丘の水で作られています。

)「とまチョップ水」のラベル

  • 原材料名/水(水道水
  • 採水地/北海道苫小牧市(高丘浄水場
  • 供給者:苫小牧市上下水道部

)高丘浄水場を見学中、敷地の近くに大きなパラボラアンテナが!?

えっ、浄水場にこんな通信アンテナって、いったい? 説明してくださった職員に尋ねると、浄水場とは無関係らしい。そうだよね。

検索すると見つかりました。北大の電波望遠鏡なのだそうです。ただ、もう運用していないことが分かりました。

電波望遠鏡

翌日、さっそく現場調査に向かいました。北大の苫小牧研究林から入ります。北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター 森林圏ステーション 苫小牧研究林、電波望遠鏡はこの森の中に設置されています。

)看板とアンテナ

北海道大学理学研究科 苫小牧宇宙電波観測所」という看板がかかっていました。場所は高丘浄水場の北側に隣接した高台です。

)地理院地図より

標高52.1mの三角マーク付近に電波望遠鏡があります。Googleマップで見ると、

)Googleマップより。電波望遠鏡は北を向いています。

)現地、2018年6月4日

やはりアンテナは北を向いていました。ここ数年は北海道にも強力な台風が上陸・接近して苫小牧研究林の木々も甚大な被害を受けています。これだけ大口径のアンテナだと受ける風圧はすごい力になりそうだけど、ダイジョブかな?

衛星通信の大型アンテナを有する地球局では、台風などの強風時はアンテナを真上に向けて(おちょこ状態で)やり過ごすと聞きました。上向きなら風が吹いても抵抗が小さいということでしょう。

北大の電波望遠鏡は、この仰角と向きが定位置なのかもしれません。太陽が真正面から入ってくるような向きだと受信機に良くないのでしょうが、仰角0°、方位000°はイイのかな? アンテナ基部はしっかりしていてひどい錆びも見えませんが、歯車などアンテナ駆動部や鏡面精度に影響する構造は心配な気もします。

)パラボラアンテナの一種、カセグレン(Cassegrain)アンテナ

)主鏡の口径(大きい傘の直径)は11メートル、副鏡(3本の支柱に取り付けられた小さい傘)の口径が約1.4メートルらしい。焦点の位置(主鏡の真ん中の突き出た部分)に受信装置が入ります。

遠方から届いた電波は、主鏡のパラボラ(放物面反射器)で反射して副鏡に向かいます。双曲面反射器になっている副鏡で再び反射した電波が、焦点に集まるのです。このアンテナでは、反射鏡がない場合に比べて300万倍以上も集めることができ、微弱な電波を検出しやすくなります(北大で使用していた22GHz帯の場合、やぶ悟空による概略値)。

長いことアンテナを動かしていないようで、雨水汚れの筋が目立ちます。近くで見ると、反射鏡もあまり綺麗とは言えません。

経緯

北海道大学 大学院理学研究院 物理学部門/理学院 宇宙理学専攻の徂徠和夫(そらいかずお)准教授の文献によれば、苫小牧11m電波望遠鏡は、通信総合研究所(三浦観測局)から譲渡されたアンテナで、星の誕生を探ったり、VLBI(※1)観測にも成功するなど実績を重ねてきたようですが、15年を経過した20163月で運用停止、廃棄することになったそうです。老朽化に伴い費用対効果が見込めないことが理由でしょう。

アンテナ基部には「郵政省通信総合研究所 VLBI観測用アンテナ・受信系」…と刻まれた銘板があり、「製造年月:1995年3月、製造会社:日本電気株式会社」となっています。「製造番号:3」ってことは、NEC製同型の3基目か。

20年以上前に、宇宙測地技術を用いた首都圏広域地殻変動観測計画で、小金井市(東京都)、鹿嶋市(茨城県)、三浦市(神奈川県)および館山市(千葉県)を結んだ4局でVLBI(※1)観測を行っていたとのこと。そのアンテナの一つが北の大地に渡り、北大の研究者と共に苫小牧の森の中で第二の人生を送ったんですね。

(※1)VLBIとは
超長基線電波干渉法(VLBI : Very Long Baseline Interferometry)
国土地理院による説明はこちら

)パラボラ反射器の隙間から昼の太陽が輝いた。

徂徠(そらい)准教授によれば、「他機関への譲渡も検討したが、研究機関や科学館等の引き取り手が見つからなかった」としています。廃棄の決定はとても残念で、もったいない! 教育利用として、苫小牧市(科学センター)で引き受けられないものでしょうか?

北大が使っていた機能をそのまま維持する必要はまったくありません。経費を抑えるため、移設はせずに科学センターの分室と位置付け、アクセス道路と駐車場の整備のみにとどめます。しかし、大型アンテナ駆動系の整備や維持は最低限必要です。それを実際どう使うのか、直ぐに私が提案できるものは持ち合わせていませんが、苫小牧高専や苫小牧工業高校などに具体的な利用策を検討していただいては如何でしょう? アマチュア無線を趣味にする方々や宇宙少年団などにも協力を仰ぎましょうか。その目的に合わせて機器の交換や改修が必要ですが、一部自作が可能かもしれません。

教育利用が実現すれば、小中学生や園児たちにも宇宙や衛星通信について大きな夢を持ってもらえそうです。壊してしまうのは簡単ですが、市内にある貴重な科学遺産を上手く利用しない手はありません。苫小牧市には電波望遠鏡の譲り受けについて改めて検討していただき、宇宙ステーション・ミールと併せ、航空・宇宙の街として公開、展示や利用を進めてほしいと思います。

おわりに

水道をきっかけに、話題が宇宙まで飛んでしまいました。電波や通信などに興味を感じない大人は多いと思いますが、子供たちの感性は果てしなく広く無限です。ちょっとしたきっかけが、秘められた可能性をどこまで伸ばしていくか分かりません。高齢化社会を迎えるからこそ、子供たちの未来に投資したいと考えます。

)高丘浄水場、容積1立方メートルを実感するための模型

※ 写真はすべて、2018年6月3日および4日、やぶ悟空撮影