樽前山で起きた航空事故 3

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3.飛行の経過、ラスの回想から

どのような状況で事故が発生したのかを知るには、事故機の搭乗員で大けがをしながらも生還したラスムッセンの記憶から引き出された「CC in WW2」の記述に頼るしかなさそうです。7月14日の朝、イーグルストン中尉とラスムッセンが搭乗したSB2Cヘルダイバーが空母シャングリラを発鑑するときから、北海道を攻撃中に墜落するまで、やぶ悟空のざっくり翻訳でご辛抱ください。(冒頭の写真は、SB2C-4E ヘルダイバーの操縦席)

発艦

— 翻訳ここから —

甲板に押し上げらると、次々と飛行機がパワーを入れ、水蒸気の筋を残して見えなくなっていた。多くの飛行機が飛び立ったのに全く見えないのは奇妙だった。さあ、我々の番だ。離陸位置に着いた。艦首は見えない。イーグルストンはスロットルを押し込み、操縦桿を引いた状態でブレーキを踏みつけた。機体の尾部が神経質に小刻みに踊った。(略)イーグルストンがブレーキを放すと、我々の機はスープの中へと急上昇していった。(略)

我々は姿を消した。とても気持ちの悪い感じだ。イーグルストンと私は高度を上げ、霧の中を併走するターキー(TBM、アベンジャー)雷撃機を見つけた。そのTBMは、同じように、我々と合流する前にコルセア(F4U)と一緒だった。そのコルセアは他のコルセアを引き連れていた。雲から出たとき、フライング・サーカスのように5機編隊になっていた。コルセア3機、アベンジャー1機、そしてイーグルストンと私のヘルダイバー1機である。それは当然で、このような(視界の悪い)気象状況ではどんな機でも見つけたら合流し、視界が開けるまでその後に付く。お互いの衝突を避けるためだ。

— 翻訳ここまで —

バーティゴ(空間識失調)

霧の中を北海道へと向かう途中、空間識失調に陥った機がありました。

— 翻訳ここから —

「トラブル発生! バーティゴになった。」と甲高い声が無線に入った。その声から16歳ぐらいと思われるコルセア・パイロットが位置と方向感覚を失って、ひどく動揺していた。年長の猫(ヘルキャット?)が無線で答えた。「オーケー、青年よ。高度は?」。震える声で「2,000フィート」と答えた。「速度はどうだ?」と熟練パイロットが穏やかに尋ねた。彼は若いパイロットに話し続け、適切なデータを全て引き出してから言った。「君がすべきことは、定められた進路をとることだ。針とボール(計器)を見て飛べ。」

若いパイロットが自身の操縦を取り戻したとき、年長パイロットは降下して状況を報告するよう彼に言った。若いパイロットはその通りにし、やっと雲を抜けたとき高度は500フィートだった。

— 翻訳ここまで —

空間識失調はバーティゴ(Vertigo:めまい)とも言われますが、「空間識」の「失調」なので、英語ではスパシアル・ディスオリエンテーションと言うのが適切のようです(spacial:空間的な、disorientation:方向感覚を失うこと)。単に「disorientation」だけで表現する場合もあります。航空医学研究センターの解説を参考にご覧ください。

空間識失調は、雲に入って外が見えないなどの視覚情報の欠如で必ず起きるわけではありませんが、姿勢維持に必要な地平線などの情報が目に入ってこなくなると、計器が指示する水平が自身の感覚と違っているような錯覚を生じることがあります。

CC in WW2」には他にも空間識失調の事例が載っているので、紹介します。

第2次大戦後、9年を経過した1954年7月22日、3名が搭乗した米海軍のスカイレイダーAD-5Nが米国内で山に衝突しました。それぞれ5マイルほど離れた緩い3機編隊での訓練飛行中で、ラスムッセンが搭乗した機は中央に位置していました。飛行中に雲が低くなり、レーダーに映った前方の山を避けるためラスムッセンの機がゆっくり左旋回したとき、右側の僚機が山に激突した光りを見たのです。事故調査の結果、事故機の操縦士は雲に入って空間識失調に陥ったものとされました。事故機にもレーダーが装備されており、また飛行前に注意を促されていた山でした。事故現場は山頂からわずか50フィート(15メートル)の位置だったそうです。

攻撃

ふたたび、話を1945年7月14日の空襲に戻しましょう。

— 翻訳ここから —

下の方で雷撃機が船を襲撃しているのが見え、我々は内陸に向かった。室蘭~苫小牧間の海岸線に沿って走る線路上に列車を発見し、攻撃を開始した。ボギー(敵機)の通報がいくつもあったので、私は(後席で)周囲の敵を捜していた。イーグルストンは機銃と爆弾で列車を攻撃するため、線路に沿って降下し列車の正面に向かい合った。機銃を撃ちまくった後、急上昇しながら列車に爆弾を投下した。かなり低高度で、彼はいい度胸をしていた。

通り過ぎるとき、私は列車からの閃光を見た。イーグルストンに対空砲のようだと伝え、彼は機を雲の中へと上昇させた。これは標準の手順だ。対空砲と思ったら雲の中に潜って方向を変える。そうすれば敵は航跡を追えないのでどこから出てくるか分からず、驚かすことができる。だが、状況はすぐにマズイことになった。

そして、墜落

見通しのきく明るいところから急に視界がきかなくなったとき、イーグルストンが叫んだ。「バーティゴだ!」 私は、戦闘中は目を後ろに向けておくのが仕事なので、後ろ向きだった。後席の計器を見ようと振り返ったところ、めちゃくちゃな表示になっていた。彼に言うことはただ1つ、「針とボール(計器)を見ろ」。そして付け加えた。「高度と速度だ」。他に私にできることは多くはなかった。彼はいつもすぐに方向感覚を取り戻しており、そんな状態からすばやく抜け出した。計器表示が安定してホッとした。問題は我々の位置だ。どちらを向いているのか分からないまま140ノット(260km/h)の速度で陸地の上空を飛び回った。私は陸地を西に進んでいると推測した。高度は2,0002,500フィートだ。

イーグルストンが聞いた。「ラス、海はどっちだ?」。私は答えた。「ほぼ後ろだ」。彼は操縦桿を乱暴に操作して方向転換した。後席の風防は開けてあり、機のすぐ下を尾根の岩が通過するのがはっきり見えた。すごく近い。10フィート(3メートル)なかったと思う。速度が落ち始めた。「失速するぞ!」と私は叫んだ。彼はパワーを入れたようだった。左主翼が山に当たったのは、そのときだった。(機体が)側転し始めた。

これまで聞いたことがないような大きな音だった。最初の尾根がすぐ下を通過してから私は、墜落のときにどう座っていたらいいかを考えていた。背中を前にすべきか後ろか? 頭を前に下げて考えた。たぶん機内のもの全てが私にぶつかってくる。もし私が機銃の方に動いたら、たぶん機銃が反転して強打するだろう。墜落の瞬間、私が何処にいたのか正確には思い出せない。

— 翻訳ここまで —

※ CC in WW2 : Chippewa Chief in World War II

「3.飛行の経過、ラスの回想から」ここまで。

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