ビームカット と ブラインド

函館市の北約20kmの横津岳には複数の無線施設が設置されています。そのため、お互いの電波が悪影響を及ぼさないよう配慮する必要があり、ひとつの方法としてレーダーの「ビームカット」があります。また、毛無山レーダーの「ブラインド」らしき雲画像を見つけました。

(冒頭の画像は、2018年10月27日09時45分の横津岳気象レーダー・エコー。tenki.jp より)

横津岳気象レーダーのビームカット

気象レーダー画像を見ると、横津岳の北西10時方向にまったく雨雲が現れないくさび形のエリアがあることに気付きます。よく見ると他にも西に2本(9時と9時半方向)、幅はごく狭いですが線状に雨雲が切れているエリアがあります。

ビームカットと思われるエリア(ピンク矢印3本)。国土交通省防災情報提供センターのwebサイトより

私の想像ですが、気象レーダーの電波を発射しない、ビームカットされている範囲がくさび形に表れていると考えられます。ビームカットすれば雲や雨滴からの電波の反射がないので当然その範囲は映らなくなり、気象レーダーとしては困りますね。でも、電波干渉の防止や機器の保護などのため、特定の方向だけビームカットすることがあるのです。横津岳には気象レーダーの他にもいくつかの重要施設があるので、国土地理院の地図で見てみましょう。

)横津岳の標高1100メートル以上の無線施設6か所の配置。ビームカット・エリアは推定

横津岳山頂(1167m)には、国土交通省航空局が運用する航空路監視レーダーが設置され、半径250海里(約460km)内を飛行する航空機を監視しています。北海道開発局の横津無線中継所もすぐ隣にあります。また、航空機と通信を行うRCAGの対空送信所と対空受信所が少し離れた場所にあり、これらはもちろん使用周波数帯は異なりますが、距離が非常に近いため影響は避けられません。気象レーダーの一番近くにあるのが、陸自の横津岳無線中継所だと思います。

航空路監視レーダーと気象レーダー、どちらもシャープにビームを絞っており、アンテナが向き合って送信電波をまともに受信してしまうと高感度の受信部が壊れるおそれがあります。その方向からの強い電波を遮断する意味もあって、気象レーダーがビームカットしているものと考えられます。

2か所の無線中継所のパラボラアンテナは向きが固定され、気象レーダーの方向を向くことはありませんが、距離が近いとアンテナのサイドローブ(sidelobe:主方向以外の放射ビーム)が電波を拾ってしまうので、ビームカットしているものと思います。

)気象レーダーサイトから見た横津岳山頂方向。地上からはRCAG対空受信所が見えない

RCAG対空送信所はビームカットされていますが、横津岳の反対側にあるRCAG対空受信所はビームカットの範囲に入っていないようです。山頂の陰になるので高低差により影響がないのでしょう。

少し古い資料を見つけました。もともと夜景で有名な函館山にあった気象レーダーが、1992(H4)年に横津岳に移設されたときの記事(細氷39号 1993)です。ここに掲載された横津岳レーダー探知範囲の図からも、ビームカットと思われるくさび形が見て取れますが、この時点では2本だけのようです。

ちなみに、2007(H19)年には気象ドップラーレーダーに更新されて風も捉えられるようになっています。

毛無山気象レーダーのブラインド

もうひとつ、レーダーのブラインドについて見てみます。意識的に電波を出さないビームカットと違い、主に地形などによって電波の届かない(レーダーに映らない)ところをブラインドblind)といいます。それらしき雨雲のエコーを、たまたま見つけました。

)毛無山気象レーダーのブラインドと思われるエリア(黄矢印と毛無山気象レーダーを結ぶ線の南側、毛無山から7時~8時方向付近)。tenki.jp より

黄矢印の先にある強い雨雲のエコーが直線上に切れており、その南側にあるはずの雨雲が映っていないようです。この現象をブラインドだろうと考えたのは、毛無山気象レーダーのロケーションからです。次の地図をご覧ください。

毛無山気象レーダーは標高700メートルに設置されています。アンテナの海抜高度は749メートル(気象庁webサイト)ですが、レーダーサイトの南東側にそれより高い山があります。標高750メートル以上の山を黄色で塗りつぶしました。単純に考えて、この山の陰になる部分は雨雲が映らないブラインド・エリアになるでしょう。アンテナの仰角(水平から上の角度)が大きければ電波が山の上を通過するので、高い雲なら映りますが…。地図とレーダーエコーを見比べると、7時~8時方向のブラインド・エリアには赤や黄色の強いエコーがほとんど見えないことが分かります。

※ 豪雨などで電波の減衰が大きく、それ以遠の観測ができなくなることを「ブラインド」(電波消散)とし、山や建物による遮蔽を「電波遮蔽」とする文献もありました。

※「北海道の気象レーダー 2、毛無山」も参考にご覧ください。

レーダー画像の利用

気象レーダーが映し出す雨雲の画像は色分けされ、時間の経過と共に雲の動きも分かるので、私のような気象に詳しくない者にも解りやすいのですが、すべての雨雲を映し出しているわけではないことに注意が必要です。

今回はビームカットブラインドについて紹介しましたが、他にもレーダーの特性により、実際にあるものが見えなかったり、何もないのにエコーが現れたりすることもあります。今では3次元表示による降雨観測もできるらしいですが、提供される画像に雨雲情報がすべて含まれていると考えるのは、まだ早計なのかもしれません。

こちらの記事も、ご参考までに。

コメント

  1. イカゴロ より:

    「ビームカット」と「ブラインド」、非常に勉強になりました。今まで気にも止めていませんでしたが、これからは気象レーダーの画像を見る時には、やぶ悟空さんの本件記事を思い浮かべたく思います。

    • やぶ悟空 やぶ悟空 より:

      気象レーダーのリアルタイム画像は、飛べるか/飛べないか、いつまで/いつから、の決断ツールのひとつとして、仕事で飛行する人たちにも活用度が高いようです。レーダーエコーは地図のように均一ではないことを理解した上で、Go/No Goを判断する難しさがあると思います。