低空で脅威飛行?

昨年暮れの12月20日、海上自衛隊のP-1哨戒機が、韓国の駆逐艦から火器管制(FC)レーダーの照射を受けたことについて、いまだに大人げない口げんかが続いているようです。私自身は、防衛省が公表した資料や韓国側の言い分などから、FCレーダー照射を受けたことは事実らしいと考えているので「照射を受けた」と表現することにします。
(冒頭写真の出典:海上自衛隊ホームページ

公表動画から解ること

韓国側は、海自P-1哨戒機が韓国駆逐艦に近接した距離で「低空で脅威飛行した」と主張し、謝罪を求めているそうです。それに対し防衛省は、P-1から撮影した映像や機内の音、飛行航跡などを公表し、「低空脅威飛行」の事実はないことを証明しようとしています。防衛省が12月28日に公表した映像はニュースで何度も見ましたが、あらためて防衛省のwebサイトで見直してみました。

防衛省のwebサイトで公表された動画の一部をキャプチャしたもの

初めてこの映像を見たとき、哨戒機って対象にずいぶん接近するんだナぁ…と感じました。「警戒監視及び情報収集」のため、写真撮影に適切な距離と高度があるのでしょう。でも、対象の艦船側から見上げると、敵対国の哨戒機でないことが分かっていても、イヤな感じを受ける位置関係のような気がします。

防衛省のwebサイトで公表された「P-1飛行概要(イメージ)」図の一部

先の映像は、この図の②(マル2)駆逐艦の艦尾側を、高度約230m、距離約500mで通過したときのものです。映像に写っている左翼端の位置から、P-1は短時間ですが25度ほどのバンクをとっていたことが分かります。釣合い旋回だったとすれば、航跡は図の点線より駆逐艦側に回り込んでいたかもしれません。

防衛省のwebサイトで公表された動画の一部をキャプチャしたもの

この映像は、航跡図では⑤(マル5)駆逐艦の右横を、高度約150m、距離約500mで通過中のものです。このあたりが最接近(防衛省では「最近接」と言うらしい)した位置です。艦尾を通過したときと距離はほぼ同じですが、高度が150m(最低安全高度)まで下がっています。スラントレンジ(斜距離)で「約530m」と図には書いてありますが、単純計算すると「約520m」となりそうです。(艦尾を通過したとき、高度230m、距離500mなら斜距離は550m)

)韓国駆逐艦と海自P-1哨戒の距離と高度(防衛省公表資料を基に推算)

ここで、あれっ、と気づきました。真横からの映像と艦尾からの映像を見比べると、どちらも同じ距離の約500mから撮影したにしては駆逐艦の見え方がずいぶん異なっているように感じたのです。あらためて、P-1が駆逐艦の真後ろを通過したときと、右側真横を通過したときの見え方を比べてみることにしました。どこを見れば分かりやすいだろうか? そう、艦尾ヘリパッドの円形に着目することにします。

防衛省のwebサイトで公表された動画の一部をキャプチャしたもの

防衛省のwebサイトで公表された動画の一部をキャプチャしたもの

円形を斜めから見れば上下がつぶれて見えるので、つぶれの程度から駆逐艦と哨戒機の角度が求められます。これだけで撮影位置を特定することは困難ですが、画像の遠近特性を使ったり、P-1哨戒機の左翼端が写っている画像を利用するなど、少し工夫すると距離と高度の概略値を求めることができそうです。精度を上げるには、画像処理を施したり駆逐艦の特定部位の寸法が必要でしょうから、今回は「私が見た感覚」だけで判断します。

真横から見た映像ではヘリパッドの円形のつぶれ度合いが大きく見え、浅い角度で撮影されたことが分かります。でも、最初にP-1が左旋回しながら駆逐艦の後方を通過したときの映像は、円形のつぶれ度合いが比較的小さく、深い角度で駆逐艦を見下ろしているようです。十分に距離をとっていてもレンズの望遠側で撮影すれば大きく見えるものですが、ずいぶん近い感じがするナぁ。

防衛省のwebサイトで公表された動画の一部をキャプチャしたもの

この映像は、P-1が駆逐艦の右横を通過した直後のもの。十分に距離が確保された状態で通過したように感じられます。

「低空」で「脅威」

低空か低空でないかは明確な定義がないので、双方の受け止め方に差があるのはやむを得ないでしょう。例えば、航空法の最低安全高度を守っていても一般的に「低空飛行」と言うこともあるし、マジの軍事作戦中なら高度150mを敢えて「低空」ということもないンでしょう。じゃあ、韓国側が主張する「人道主義的救助作戦」中だったとしたら、どうなの?

脅威を受けた者が、脅威と感じれば、それは脅威である」と、実務者協議の場で韓国側が主張したそうです。そうなのかもしれません。そういえば、ハラスメントに関しても似たような言い分があることを思い出しました。職場での部下に対する振る舞いについて、セクハラだのパワハラだの言われないようにと、おじさんたちは困ってしまったものです。駆逐艦が哨戒機を「脅威」に感じることが実際にあるのかどうか私には分かりませんが、こうなってしまうと、もはや子供の口げんかよりも低次元かもしれません。

通信状況

防衛省の最終見解(平成31年1月21日)には、通信状況について次の記述があります。

韓国側が公表した動画では、韓国駆逐艦内において海自 P-1 哨戒機の乗組員の呼びかけ内容「KOREAN SOUTH NAVAL SHIP, HULL NUMBER 971, THIS IS JAPAN NAVY.」を明確に聞き取ることができます。この点について、本年1月14日の実務者協議で韓国側は、海自 P-1 哨戒機からの呼びかけを繰り返し確認した結果、後になって通信当直の聞き間違いであることを確認したと初めて説明しました。

やれやれ、韓国側の対応にはあきれてしまいますね。

おわりに

真実がどうだったのかはもちろん大事なのですが、それを明らかにするためあれこれ情報を開示し相手方に非を認めさせようとしても、その正当な手法が必ずしも通じるわけではありません。北方領土問題にしてもしかり、外交の場においては何が正しいかの一本やりで関係が改善されることは少ないと言ってもいいでしょう。棚上げと言われるかもしれませんが、正論で攻めすぎて抜き差しならないこじれた状態になる前に、関係改善の機が熟すまで待つというのもアリかもしれません。その間、我が国としては常に大人の対応を忘れないようにしましょう。