MTSATは、いま

前回の記事「神戸に管制部」に関連して、神戸航空衛星センターはどうなるの?と気になります。実は、神戸航空交通管制部(神戸ACC)は神戸航空衛星センターにあるのです。日本の航空衛星システムはどうなるのでしょう?

▲冒頭の図はMTSAT-1R、出典:国土交通省航空局のwebサイト(リサイズ処理)

MTSAT って?

人工衛星のことです。運輸多目的衛星MTSAT(エムティーサット)といいます。「多目的」というのは「航空」と「気象」の機能を持たせたためで、航空局も気象庁も当時は運輸省(現在は国土交通省)の組織なので「運輸多目的」としたのでしょう。一般には気象衛星「ひまわり」の呼び名で知られていて、航空衛星としての認知度は低いようです。

  • MTSAT: Multi-functional Transport Satellite、運輸多目的衛星

MTSATは、H-IIAロケットの打ち上げ失敗や衛星メーカーの破綻などに見舞われ、当初の計画から大幅な変更を余儀なくされました。そのあたりの経緯は省略しますが、2基のMTSATが静止軌道に打ち上げられました。

  • MTSAT-1R(ひまわり6号)、2005年2月打ち上げ
  • MTSAT-2(ひまわり7号)、2006年2月打ち上げ

地球局の配置

MTSATの航空の機能は「航空ミッション」、気象の機能は「気象ミッション」と言われます。神戸航空衛星センターは航空ミッション用の地球局の1つで、もう1か所、常陸太田航空衛星センターもあります。

  • 神戸航空衛星センター、兵庫県神戸市西区井吹台東町7
  • 常陸太田航空衛星センター、茨城県常陸太田市白羽町

これら2か所の地球局が、静止軌道上にある2基のMTSATの監視制御(TTC)と航空ミッション(※1)を担っていました。強風(アンテナ強度)や豪雨(電波減衰)のときでも、あるいは機器の故障や災害などが発生した場合でも、航空機との通信や航法情報の提供が途切れないようにするための冗長構成で、衛星も地球局もホットスタンバイです。

  • TTC:Telemetry, Tracking and Command

(※1) 航空ミッションを大きく分けると「通信」と「航法」です。「通信」機能とは航空機と管制機関を衛星通信で結ぶこと(AMSS)、「航法」機能はGPSを安心して使うための補強情報を航空機に提供すること(GNSS)です。これらの機能を組み合わせることにより航空機の位置を「監視」することができる機能を併せて「CNS(通信、航法、監視)」ということもあります。

  • AMSS: Aeronautical Mobile Satellite Service、航空移動衛星通信
  • CNS: Communication, Navigation, Surveillance、通信、航法、監視
  • GNSS: Global Navigation Satellite System、全地球的航法衛星システム
  • GPS: Global Positioning System、全地球的測位システム

運用終了へ

MTSATの設計寿命は、MTSAT-1R、MTSAT-2共に航空ミッションが10年、気象ミッションが5年(観測機器に機械的駆動部があるため)です。先に運用開始したMTSAT-1Rは、打ち上げから10年を経過した2015年に運用を終了し、退役したようです。これで、衛星に不具合が生じても数秒で切り替えるという、MTSAT同士のホットスタンバイはできなくなりました。そして、MTSAT-1Rの退役に伴い、神戸の地球局アンテナ1基が撤去されたようですね。神戸航空衛星センターには写真のように大きな3基のカセグレンアンテナが並んでいましたが、真ん中の1基がなくなっています。

神戸航空衛星センター、出典:国土交通省航空局のwebサイト(リサイズおよびトリミング処理)

もう1基のMTSAT-2は、打ち上げから13年以上経過した今でも航空ミッション運用を継続(気象ミッションは既に運用終了)していますが、まもなく運用終了予定です。そしてMTSATが退役した後、2019年度末に神戸航空衛星センターが廃止される見込みです。

MTSAT-2、出典:国土交通省航空局のwebサイト(リサイズ処理)

こんな事情で、神戸航空衛星センターの庁舎を神戸航空交通管制部神戸ACC)として使用することになったのです。平成10年築の5階建、広さ約13,900平方メートルを「MTSAT運用業務終了による組織廃止に伴う空きスペースの活用」として、「増加する航空機通行量に対応するため実施する国内空域再編に伴う(神戸ACCの)新設」と説明されています。(出典:2017年2月17日、財政制度等審議会 国有財産分科会の議事録および資料)

引退の引き継ぎ

MTSATが引退するとなると、10年以上続いていた「運輸多目的」のミッションはどうなるのでしょう?

MTSAT-1R(ひまわり6号)とMTSAT-2(ひまわり7号)の「気象ミッション」は既に運用を終了しています。現在は、その後に打ち上げられた気象衛星「ひまわり8号」と「ひまわり9号」が気象観測を引き継いでいます。これらは気象観測専用の衛星になりました。

航空ミッション」のひとつ、「通信」機能はインマルサット通信衛星が担うことになります。もともとインマルサットシステムは、複数の静止衛星と地球局により世界中(高緯度地域を除く)をカバーしており、航空機はMTSATシステムとインマルサットシステムを自由に選択し切り替えながら(相互運用性あり)飛行していますから、MTSATが退役しても大きな問題はないはずです。

そして「航空ミッション」の「航法」機能の提供は、準天頂衛星システム「みちびき」の静止衛星が担うことになっています(内閣府_SBAS配信サービス。日本の航空局が「MSAS」(エムサス)として衛星航法サービスを提供するため、MTSATが使われています。今後は「MSAS」という名称も使えなくなりますが、引き続き航空局が提供するSBAS(エスバス)情報を「みちびき」の静止衛星を経由して送信する、ということです航空局、2017年8月25日報道発表。これはとても良い方法だと思います。

  • MSAS: MTSAT Satellite-based Augmentation System
  • SBAS: Satellite Based Augmentation System
    MSASSBASの一つ)

常陸太田は?

MTSATの地球局として、もう1か所、常陸太田航空衛星センターがあることを紹介しました。こちらは、準天頂衛星システムの主管制局および追跡管制局として利用されることになりました。(内閣府_2つの主管制局(常陸太田/神戸)

常陸太田航空衛星センター、出典:国土交通省航空局のwebサイト(リサイズおよびトリミング処理)

この情報によれば、常陸太田だけでなく神戸航空衛星センターにも準天頂衛星システムの主管制局が置かれるようですね。また、ほかの場所にも追跡管制局を置く必要があるでしょう。常陸太田航空衛星センターでは、すでにMTSAT通信アンテナのひとつ(写真の左側)が撤去され、「みちびき」追跡用のアンテナが設置されたようです。webで写真を見かけました。

おわりに

MTSATはまもなく退役を迎えますが、MTSATが提供してきたサービスは今後も継続され、MTSATの地球局もさまざまな形で有効利用されることが分かりました。日本が独自の航空衛星を打ち上げ、航空局自らがその衛星システムを運用することについては、計画当初から賛否さまざまな意見がありましたが、航空局がMTSATによる航空衛星システムを十数年にわたって運用し、世界の航空安全の一翼を担って円滑な航空交通を図る大きな力になったことは確かでしょう。今後はこの経験を活かし、より大局的な視点に立った航空政策を進めていただけるものと期待します。

コメント

  1. アバター イカゴロ より:

    さすがレーダーの専門家らしい解説で非常に勉強になりました。MSASも今まではAIPのRDO NAV欄記載のみの理解度だけで済ませていました。おかげさまで完全理解となりました。ありがとうございます。

    • やぶ悟空 やぶ悟空 より:

      MSASについてはもう少し分かりやすくしたいところですが、深入りし過ぎるかもしれません。準天頂衛星システムに上手く引き継がれるよう期待しています。