江別に「ひまわり」地球局

前回に続いて宇宙の話題です。気象衛星「ひまわり」の地球局が北海道の江別市にもあることを知り、見に行ってきました。

アンテナ

▲静止軌道を向く直径9メートルのカセグレンアンテナ2基。 カセグレンアンテナについては「浄水場とパラボラ」記事の中で少し説明しています。

▲ゲート脇の説明パネル。 カセグレンアンテナは、パラボラアンテナの一種です。

▲北海道情報技術研究所(HiiT)の建物のすぐ隣り。この立地状況からみて、副局の運用室はHiiTの建物内にあると思われます。

▲それぞれのアンテナが、ひまわり8号とひまわり9号を向いているハズ。2基の衛星は東経140.7度の同じ静止軌道ですが、0.05度だけ経度分離しているそうです。(気象庁webサイト

▲警備員は見かけませんが、もちろん立入禁止。侵入防止柵の上部に設けられた鋭い忍び返しと警報線が威嚇

衛星の運用

気象衛星はこれまで代を重ね、現在は「ひまわり8号」と「ひまわり9号」です。一応お伝えしておくと、その前の衛星ひまわり6号と同7号はMTSAT(運輸多目的衛星)でした(「MTSATは、いま」を参照ください)。衛星を運用するためには、地球局という、宇宙局(衛星)と通信するための地上側の無線設備などが必要です。「ひまわり8号/9号」の場合は、主局副局という名称で次の場所に置かれています。

  • 主局:
    東京都板橋区舟渡四丁目17番地5(運用室)、
    埼玉県比企郡鳩山町大豆戸1440-1(アンテナサイト)
  • 副局:
    北海道江別市西野幌45番5(アンテナ・運用室とも)

この詳細な住所は公表されており、「静止地球環境観測衛星の運用等事業、民間事業者選定結果」(平成22年9月29日、国土交通大臣)が出典です。タイトルから分かるように「ひまわり8号/9号」の運用など(※1)は民間が行っています。気象衛星ひまわり運用事業株式会社HOPE(※2)という会社(SPC)を作って、民間企業の資金、経営能力及び技術力を活かして公共施設等の整備、維持管理、運用等を行うPFI方式で運用しているそうです。このところ増えていますね、このやり方が。

  • HOPE: Himawari Operation Enterprise corporation
  • PFI: Private Finance Initiative
  • SPC: Special Purpose Company、特別目的会社

(※1) 衛星2基の衛星管制および観測データの受信・処理・伝送を行うために必要な施設および設備の整備、維持管理、ならびに衛星の運用に関する業務。事業期間は「平成42年3月31日まで」となっています。平成は間もなく終わるので西暦で表すと「2030年3月末まで」となります。

(※2)気象衛星ひまわり運用事業株式会社(HOPE)の構成企業は次のとおり

  • 三菱UFJリース(株)=代表企業=SPC管理およびファイナンシャルアドバイザリー
  • 新日鉄住金ソリューションズ(株)=施設整備
  • 宇宙技術開発(株)=衛星運用
  • 三菱電機(株)=物品調達・保守(衛星の製造者)

もう一つ、この資料を見て気になったのが衛星の名前です。静止地球環境観測衛星ひまわり8号」および「ひまわり9号」と記載されています。単に地球の写真を撮るだけの「気象衛星」じゃないゾ、ってことなンでしょう。確かに、現在の「ひまわり」衛星はMTSATに比べて格段に進化していることが、日々の天気予報を見ているだけでも分かります。

「ひまわり8・9号」については、三菱電機のwebサイトをご参照ください。

場所

江別市内を走る道央自動車道の、ちょうど野幌パーキングエリアの南側にあたります。北海道情報大学の構内らしく、2基のアンテナのすぐ南側には野幌森林公園につながる森が広がっているので、札幌という大都会に近い割に電波環境は悪くないのでしょう。

▲アンテナの背後から。前方の森で低仰角のノイズが抑制され、パラボラが受ける強風も緩和されそう。

▲北海道情報大学の野球場付近から

▲北海道情報技術研究所のゲート付近

このあたり雪が多い! 冒頭の写真を見ると、ホーン(電波の出入口)に風を吹き付けて雪や雨粒を飛ばすしくみが見えます。

気象衛星ひまわり運用事業株式会社(HOPE)で衛星の運用を受け持っている宇宙技術開発(株)は、さまざまな衛星の運用で長年の実績を持つ会社です。

  • 北海道情報大学、HIU
  • (株)北海道情報技術研究所、HiiT
  • 宇宙技術開発(株)、SED

これらは「eDCグループ」(株式会社SCCが中核企業)のメンバー企業であることから、北海道情報大学の広い敷地内にアンテナを設置し、高速ネットワークが完備した北海道情報技術研究所の建物内に運用室を配置して、経験豊富な宇宙技術開発の技術者がひまわりの運用を行っている、という状況が想像できそうです。

  • eDC: Electronics Development group Company
  • HiiT: Hokkaido Institute of Information Technology
  • HIU: Hokkaido Information Univercity
  • SCC: Software Consultant Corporation
  • SED: Space Engineering Development Co.,Ltd.

「ひまわり8号/9号」運用事業者の選定に当たっては、施設の立地などについて、次の条件が指定されていました。


対象施設及び対象設備は、降雨による本事業衛星ー地上間の電波伝搬の障害や地震・火山噴火時の予想震度・被害想定等に配慮して、北海道から九州地方の範囲に複数配置することとする。
この際、以下の条件を満たすこととする。

・主局は、関東地域(島嶼部を除く。)に配置すること。

・副局は、(略)機能毎に複数地域に分散して配置することは妨げないが、副局機能のうち、観測データの受信に係るものについては、正衛星の観測データを常時受信するために北海道地域(島嶼部を除く。)に配置すること。


出典:「静止地球環境観測衛星の運用等事業、特定事業の選定について」(平成22年1月18日、国土交通大臣)

衛星が2基あり、地球局を複数置く冗長構成は運用継続の常套手段かと思いますが、副局を機能ごとに分散して配置することはコスト面から民間事業者の選択肢にはないでしょう。つまり、「北海道から九州地方の範囲に複数配置する」としながらも、主局は関東地域副局は北海道地域と、ほぼ限定されていたものと思われます。主局については、上記資料の中で「無償で借用することができる」とされている、以前から運用中の埼玉県鳩山のアンテナサイトを当然使うとして、副局を北海道に置くことにした理由が同資料では明らかにされていません。何か思惑でもあったのかな?

今日から3月。もう少しすると雪も消え緑が芽吹いてくるでしょう。広い大学構内の片隅に置かれた「ひまわり」地球局、こんな環境で日々の仕事ができるなんて羨ましいなぁ。な〜んて、衛星運用職員のご苦労もろくに知らずに、感じたのでした。

※ 写真はすべて2019年2月25日、やぶ悟空撮影