石狩ヘリポートと巨大風車

札幌市の消防防災ヘリコプターが基地にしている石狩ヘリポートの話題です。写真は、風力発電の巨大な風車をかすめるように離陸上昇するベル412EPJA119L)。

石狩ヘリポート

2019年1月末、札幌で日中に空き時間ができたので、石狩ヘリポートへ行ってみることにしました。ちょうど出発準備をしていたようで、いいタイミング! 札幌市消防局の消防防災ヘリコプター(ベル412EPJA119L、「さつぽろ1」)です。少し待っていると、南に向いて巨大な風車の方に離陸していきました。(冒頭の写真)

札幌市消防局は,もう1機,アグスタAW139ヘリコプター(JA17AR、「さつぽろ2」)も所有し運用していますが、このときは見かけませんでした。

▲石狩ヘリポートと最寄りの風車 (2019年3月、やぶ悟空撮影)

石狩ヘリポートの場所は石狩市(石狩湾新港の近く)ですが、使っているのは札幌市消防局です。Wikipedia「朝日航洋札幌航空支社石狩基地」によると「朝日航洋所有の非公共用ヘリポート」となっています。AIS JAPANには掲載されていませんでした。場外離着陸場の扱いなのかな?

  • AIS JAPAN : Japan Aeronautical Information Service Center

北海道開発局は、災害対策用ヘリコプター(ベル412EPJA6797、「ほっかい」)の運航を朝日航洋に委託しており、石狩ヘリポートが定置場になっているそうです。そうすると、石狩ヘリポートにはベル412EPが2機とアグスタAW139が1機の計3機が常駐しているンですね。ハンガーが大きいので余裕で収まっているでしょう。

▲北海道開発局のベル412EP、JA6797、「ほっかい」 (2018年8月、丘珠飛行場、やぶ悟空撮影)

風車

少し気になったのは周辺の障害物、つまり、風力発電の巨大な風車です。次の写真には9基が写っています。

▲石狩ヘリポート(中央)付近に建つ風車群 (2019年3月、やぶ悟空撮影)

▲まるで格納庫の上に建っているようにも見える風車。ヘリコプターは直ちに出動できるよう、屋外で接続されたままスタンバイ中 (2019年3月、やぶ悟空撮影)

周辺を回ってみると、次の図のように風車が11基、見つかりました。

▲石狩ヘリポート周辺の風車群 (2019年3月現在、やぶ悟空調べ)

海からの風を効率良く受けるための配置なのでしょう。まるで、ヘリポートの進入・出発経路を示す地上目標のようにも見えます。これらのほか、南西方向の銭函市側にも建っています。赤い円は、ヘリポートから半径500メートルの距離を示します(なぜ500mなのかについては後述)。

要件クリア?

▲札幌市消防局、石狩ヘリポート (Googleマップ)

▲Googleマップのマーキングから推測した離着陸方位

Googleマップの写真から、離着陸の方位は02/2008/26ではないかと思います(VAR 9°W とした)。Wikipedia「朝日航洋札幌航空支社石狩基地」では「02/20」と記載されていますが、02の進入と20の離陸は、南側に格納庫が隣接しているため制限されているでしょう。おまけに風車の間を抜けるコース取りになります。

ヘリパッドから半径500メートル以内に2基の風車が回っています。そのうち最寄りの1基は、道路を挟んで170メートルほどの距離です。ヘリコプターの離着陸方向を避けて建てたように思われますが、現地に立って見上げるとパイロットにはかなりの圧迫感を感じるような気がしました。

場外離着陸場の設置要件を見てみます。制限表面(進入表面や転移表面など)に細かな決まりがありますが、簡単に言うと、離陸方向500メートルの範囲は勾配8:1、着陸方向250メートルの範囲は勾配4:1より高い障害物があってはいけません。そこで、より厳しいほうの「離陸方向」で検討してみます。これが半径500mの円を描いた理由です。

勾配8:1というのは、ヘリパッドから500メートル先で高さ62.5メートルとなり、角度にすると約7°です。は500メートル先で200メートル(左右に100メートルずつ)が必要です。図上で見る限り、02/2008/26共に、風車群はいずれも幅の要件の範囲から外れた位置に建っており、距離が近くてこんなに背が高い割には制限表面を犯してはいないようです。

20方向は左手の格納庫の上、26方向は風車列より右側。格納庫の高さは勾配8:1をクリアしていない。背景の手稲山頂までは9nm(海里)。 (2019年3月、やぶ悟空撮影)

ヘリコプター(回転翼航空機)は、飛行機(固定翼航空機)と違って速度幅が低速域に広く、進入角や離陸上昇角の自由度が比較的高いため、ヘリポート近傍の障害物に対する設置要件が比較的緩いと言えそうです。この石狩ヘリポートの場合は、後からヘリポートのすぐ近くに複数の巨大な建造物(風車)が造られた、ということのようです。

▲道路を挟んだ場所に建つ最寄りの風車の銘板 (2019年2月、やぶ悟空撮影、一部を画像処理)

石狩湾新港付近では、西または北西からの風が吹くことが多いのではないかと推測します。すると風車は風上となる海側を向いて回転することになり、巨大なプロペラの回転によって生じる渦は風下(東〜南東の方向)にできることが多いでしょう。それなら、石狩ヘリポートの離着陸コースへの影響は、ほぼ無さそうです。でも季節によっては、ヘリポートが風車の風下に入るような風向きにならないとも限りません。

単純な比較はできませんが、大型旅客機の翼端から発生する後流の渦は想像以上に強く、長い時間残る場合があります。そのため、管制間隔にも制限が設けられているほどです。同じ位置で連続して回転する風力発電の巨大な3枚プロペラが発生させる渦は、はたしてどれほどのものなのでしょうか? ヘリコプターはもともと不安定な航空機ですが、離着陸のように一層クリティカルな状況においては、空気の乱れは少しでも避けたいものです。石狩ヘリポートを使用する消防防災ヘリコプター(消防局)あるいは災害対策用ヘリコプター(開発局)という位置づけから、必要なときに直ちに運航できることが求められており、無用な不安全要素は歓迎できないでしょうね。

石狩市は、平成30年に「風力発電ゾーニング計画書(案)」を公表しています。その中の図には、既設の風力発電用風車だけでなく、建設・計画中の風車も示されています。その図の一部を抜粋しました。

▲「風力発電ゾーニング計画書(案)」(平成30年、石狩市)の「図1 市内等の風力発電事業の状況(既設及び建設・計画中 平成30年12月1日時点)」の一部を抜粋、赤字加筆

この図によると、海上にも多数の風車が3列に並ぶ計画があるようです。そうなると、風車の回転により発生する渦や、それらの渦どうしの相互作用による気流の乱れなどが、石狩ヘリポート付近あるいは出発・進入コースに及ぼす影響などを検討する必要があるのではないかと、少々気になりました。

※ 「風力発電に係るゾーニング」とは、「環境保全と風力発電の導入促進を両立するため、関係者間で協議しながら、環境保全、事業性、社会的調整に係る情報の重ね合わせを行い、総合的に評価した上で、法令等により立地困難又は重大な環境影響が懸念される等により環境保全を優先することが考えられるエリア立地に当たって調整が必要なエリア及び環境・社会面からは風力発電の導入が可能と考えられるエリア等の区域を設定する手法」なのだそうです。(上記の計画書による用語解説)

風力エネルギー

太陽光、地熱、風力、水力など再生可能な自然エネルギーの中でも、風力発電はエネルギー変換効率が良いそうで、洋上にも設置可能で夜間も発電でき、経済性が確保できる可能性があるエネルギー源という特徴があります(資源エネルギー庁)。一方で、風力発電の風車が発する低周波音による健康への影響が心配され、すでに被害が表れているようです。ほかにも景観上や鳥衝突の問題なども取り上げられています。再生可能エネルギーの割合を増やしていくことはとても大事なことで賛同しますが、さまざまな課題の解決やそのための手段の検討を疎かにすることなく、丁寧に進めていく必要があると思います。

単なる気まぐれで石狩ヘリポートを見に行っただけなのですが、その近くの巨大な風車群に圧倒され、制限表面や渦の心配、自然エネルギー利用の課題まで、いろいろなことを考えるきっかけになりました。

▲格納庫を越えて出発するため、離陸して垂直に高度を上げるベル412EP(2019年1月、やぶ悟空撮影)

巨大な風車に勇敢に立ち向かったのはドン・キホーテ、ヘリコプターの場合は果敢に戦いを挑むわけにはいきません。風車の回転面から十分離れるだけでなく、念のため風車から発生する渦の影響を予測し避けながら飛行コースを選んだほうが良さそうです。