F-35A墜落は、空間識失調

ことし2019年の、まだ平成だった49日、三沢基地のF-35Aが太平洋上で墜落しました。2か月以上が過ぎた今でも、操縦者も機体も一部以外は発見されていませんが、防衛省は操縦者死亡と判断し、事故海域での揚収作業を終了しました。事故原因は「空間識失調」と見込まれています。(写真の出典:航空自衛隊webサイト、トリミング処理)

経過

3月に三沢を訪れた際、空自のF-35Aの訓練を見ました。それから1か月もしないうちにこんな事故が起きるとは…。この事故について少しばかり振り返ってみます。情報ソースは、航空自衛隊の報道発表防衛大臣記者会見、そして各種メディアの報道です。

墜落した航空機はステルス戦闘機F-35A79-8705号機(以下、当該機)でした。

= 4月9日(火) =

  • 18:59ごろ、三沢基地を離陸

航空自衛隊三沢基地の302飛行隊に所属するF-35Aは全13機、そのうち4機が夜間の対ファイター戦闘訓練のため訓練空域に向かいました。当該機は4機編隊の1番機でした。

  • 19:26ごろ

付近を飛行中の米軍機との間隔を確保するため、管制官が降下を指示。高度約31,500 ft(約9,600 m)を飛行中の当該機は「はい、了解」と応答し、降下開始

  • 19:26:15ごろ

管制官は当該機に左旋回を指示。高度約15,500 ft(約4,700 m)を降下中の当該機が「はい、knock it off (訓練中止)」と落ち着いた声で応答。この約20秒間に約16,000 ft(約4,900 m)急降下。<計算上、約48,000 ft/minという桁違いに大きな降下率>

  • 19:26:30ごろ

高度約1,000 ft(約300 m)でレーダー航跡が消失。この約15秒間に約14,400 ft(約4,400 m)急降下。<約57,600 ft/minという、さらに大きな降下率>

※ 高度は「メートル」で報道されているが「フィート」に換算した。時刻の「ごろ」と高度の「約」は図では省略している。

事故発生場所は、青森県三沢基地の、約135km付近の公海上で、当該機には41歳の3等空佐1名が搭乗していました。飛行時間は約3,200時間で、うちF-35Aでは約60時間でした。Emergencyコールは無かったそうです。

空間識失調と 少しの疑問

フライトレコーダーの記録は見つかっていませんが、データリンク(MADL)情報や地上レーダーの航跡記録などから、ここまでに示した程度の事実は分かったようです(ただし、報道関係者には発表したのでしょうが、空自のプレスリリースや防衛大臣発言としては、6月13日現在、急降下の状況やその分析について公表されていません)。これだけ異常な降下率だったことが判明したのなら、フライトレコーダーの高精度・高頻度な記録を求めるまでもなく、ある程度までは状況判断ができそうです。そこから、現時点では「空間識失調」という推定原因に結びつけたのでしょう。確かにその可能性が高いように思います。

  • MADL: Multifunction Advanced Data Link
  • 空間識失調:平衡感覚を喪失した状態、spatial disorientation。バーティゴ(vertigo)ともいう

しかし、疑問も残ります。当該機が降下中に「空間識失調に陥っていたことを操縦士が自覚しないまま海面に衝突」した(毎日新聞)と言い切るのは、どうでしょうか? 約30秒の間、一度も自機の姿勢や高度、速度などを確認しなかったとは考えにくいと思っています。管制指示による降下にもかかわらず高度や速度を確認しなかった、加えて、左旋回指示に対して機首方位も確認しなかったことになります。意図的な降下開始であったことは間違いないので、パイロットはいずれかの高度で必ずレベルオフしなければならないという認識を持っていたはずです。その急降下中に空間識失調に陥り、例えば、あたかも水平飛行中であるかのような感覚になってしまったということなのでしょうか?

また、降下を開始したのにスロットルはわずかでも絞らないものなのでしょうか? 降下開始当初は意図した急降下だったとしても、その姿勢を継続すると危険だということは認識するはずで、レベルオフすることを忘れてしまうことって、あるのでしょうか? 少なくとも訓練中止を宣言した後ではスロットルを開いたまま急降下を続ける必要はないので、そのころには空間識失調に陥って正しい状況認識ができずに回復操作を行うことができなかった、ということなのでしょう。

念のため周辺環境も見てみます。まず、事故発生当日の日没時刻を調べてみました。三沢基地の東135kmの位置を、仮に北緯40度42分09秒/東経142度58分08秒とし、当該機が降下を開始した高度31,500フィートで計算させてみると、日の入り1819分となりました。事故が発生した1926分ごろは、日没直後の薄明かりすら完全に消えた暗闇です(三沢離陸時の映像でもすでに暗闇でした)。また、事故当日4月9日の月齢2.8(細い三日月)で、晴れていて雲がなかったとしても月明かりはほぼ期待できなかったようです。

気になる天候はどうでしょう。海上では詳細な記録がないのでアメダスの「三沢」と「八戸」を参照すると、西の風で降水はありませんでした。両地点とも日没の18時台は日照時間が80%以上でしたので、夕方の天気は悪くなかったようです。

▲アメダス三沢および八戸(気象庁webサイトより)

ほかにも空間識失調に関係しそうなことはないでしょうか? F-35の操縦にはHMDSという特殊なヘルメットが使われ、飛行や攻撃などに必要な多くの情報が表示されるそうです。

  • HMDS: Helmet Mounted Display System

こういう最新のツールを使いこなすと大変便利で戦闘でも優位に立つことが容易になるのでしょうが、自然のままでは見えないものが見えることが、また適切な表示を選択して切り替える操作などが、かえって人間の脳を混乱させる要因になることはないのでしょうか。そんな些細なことでも空間識失調に陥るトリガーになり得るのではないかと心配してしまいます。

同列に言える事では全くありませんが、バックカメラで誘導ラインが表示される最近の自動車で私が車庫入れしてもまっすぐ収まらず、昔ながらの両サイドミラーと自分の目で確認した方が上手くいくような古い人間には、大きく進化している先端技術に関わるヒューマンファクターが少しばかり気になりました。

お亡くなりになられた操縦士のご冥福をお祈りいたします。

▲航空自衛隊のF-35A(出典:航空自衛隊webサイト、リサイズ処理)