「とまこまい港まつり」で、SH-60J 哨戒ヘリコプターを搭載した海上自衛隊の護衛艦「すずなみ」が一般公開されるとのこと。この機会を逃すわけにはいかない、と出かけました。
入港
その前日の午後、天気がいいので市内を自転車でうろついていたとき、たまたま港に入ってきた護衛艦を見かけました。きっと「すずなみ」に違いない!
(↑)苫小牧西港に入る護衛艦すずなみ、2018年8月3日15時26分(クリックで拡大)
(↑)すずなみの後部ヘリコプター甲板、2018年8月3日15時42分
一般公開
翌8月4日(土)、一般公開の開始少し前に西港南埠頭3号岸壁に到着。あれっ、もっと車や人が並んでるかと思ったけど…すんなり入れました。
(↑)格納庫から出された艦載ヘリ。2018年8月4日08時55分
(↑)護衛艦すずなみに乗船開始。4日09時
私の興味は護衛艦じゃなくヘリコプターなので、すぐ船尾に向かいます。
艦載ヘリコプター
(↑)SH-60J、4枚のメインローターを畳んだ状態で展示
(↑)正面から。もともと複雑なメインローター・ハブに折りたたみ機構まで。こんな近くで見るのは初
(↑)後ろから見たメインローター・ハブ周辺。ヘリおたくじゃないと何だか分かンないっすね。
(↑)メインローター・ブレード4枚は、テール・ブーム右側に治具で固定されています。テールは左側に折り畳めるようになっており、その部分が見えています(「海上自衛隊」の文字の後方)。
(↑)その反対側、右側はこうなっています。
機首
(↑)機首、正面から
「94」(8294号機)の下のドラムはデータリンク通信アンテナのようです。テールブーム下にも同じデータリンク通信アンテナがあります。機首の最下部には丸いお盆のようなレーダーアンテナが。
(↑)機首、左前方から
機首の左右には、何やらセンサーのようなものが3つずつ付いています。一番大きな黒丸と五角形がESM(Electronic Support Measures、電波逆探装置)アンテナのようです。四角に青丸はMWS(Missile Warning System、ミサイル警報装置)のセンサーでしょう。同じものが垂直尾翼にも2個付いていますから。
左サイド
(↑)機外を見るのに有効なバブルウィンドウ
(↑)四角い箱状の2つがCMD(Counter Measure Dispenser、チャフ/フレアー射出装置)。どちらがチャフ(chaff)で、どちらがフレアー(flare)か分かりません。
丸い太鼓のようなものには「飛行データ記録器 – 分離ユニット」の銘板が付いていました。製造する関東航空計器のwebサイトでは「ヘリコプター用分離・浮遊ユニット」となっています。墜落すると自動的に機体から分離し海上なら浮かぶので、回収して記録された飛行データを事故原因の究明に役立てることができます。
2017年8月26日、夜間訓練中に発生したSH-60J(8282号機)の墜落事故では、この飛行データ記録器(FDR、Flight Data Recorder)が付近の海域で発見され、原因を明らかにすることができました。FDRが機体と共に海底に沈んでしまうと発見や回収に大変な困難を伴うため、とても有効な仕組みだと思います。
テール
(↑)テールローターは4枚。「25」は第25航空隊、8294号機はその中の第251飛行隊の所属
この機の水平尾翼はスタビレーター(Stabilator)と言われます。Stabilizer(水平安定板)とElevator(昇降舵)の合成語です。
(↑)真後ろから見たスタビレーター、Down位置
真ん中のアクチュエーターが、速度により約-10°から+40°まで可変制御するようです。スタビレーターも両側を折り畳んで跳ね上げるようになっています。垂直尾翼は左右対称ではなく、テールを右に振る力を発生させる形状が見えます。シコルスキーはメインローターが反時計方向に回転するので、反トルクのためでしょう。
(↑)スタビレーターには4か所に「HAND HOLD」穴がありました。黒い紐は放電索で、機体の静電気を空中へ放電します。
(↑)真後ろから見たテールローター
かなり捻っていますね。垂直尾翼には、すでに述べたとおり2個のMWS(Missile Warning System、ミサイル警報装置)センサーが付いています。
(↑)テールローター、右側から
(↑)テールローターのピッチ可変機構
(↑)テールスキッドが付いていました。
右サイド
(↑)MAD(Magnetic Anomaly Detector、磁気探知装置)
ミサイルにしては傘が不自然で、ペイントも目立ち過ぎです。これは潜水艦を探知するための磁気センサで、ワイヤーを伸ばして曳航するらしい。自身の機体の影響を低減するためでしょう。
(↑)ホイスト。最大600ポンド(約270kg)まで
コックピット
(↑)機長席に座ることができますが、順番待ち。ヘルメット着用もOK!
(↑)機内の撮影許可いただきました。(クリックで拡大)
(↑)でもアップで撮らないで、とのこと。広角の写真からトリミングした右(機長)席の正面計器(クリックで拡大)
電波高度計(右上)は1000フィートまで。中央下のHSI(Horizontal Situation Indicator)がアナログ計器からEHSI(Electrinic HSI)になっていますが、ディスプレイはブラウン管らしい。画面に焼き付きが見えますので(カメラを持つ手も映ってます)。回転計・トルク計(左下)はバーチカル・インジケーターです。
(↑)中央パネル右側(クリックで拡大)
燃料量、トランスミッション(温度・油圧)、エンジンオイル(油温・油圧)、タービンガス温度、ガス・ジェネレーター回転数は、すべてバーチカル・インジケーターになっています。「STAB POS」はスタビレーター(stabilator)角度の表示器です。+10°から-40°とDN(down)位置。
右席EHSI(Electronic Horizontal Situation Indicator)の操作パネルはここにありました。RADIO CALLは「8294」、SH-60Jの8294号機からGPS航法装置が装備(Wikipediaによる)されたそうで、小さな表示器があります。
格納庫
(↑)護衛艦すずなみの格納庫内から船尾方向
2機格納できるそうです。1機目は拘束された機体がレールに沿って格納されるが、2機目は人力で入れるとのこと。
(↑)格納庫上部に上下左右の矢印ランプが…。ヘリ着艦の際の指示表示のようです。
この格納庫で苫小牧ご当地アイドル「タッチ」の艦上ライブが行われました。(写真省略)
(↑)ヘリコプター甲板の管制塔らしきもの
(↑)正しい名称を知らないので「管制塔」としておきます。背は低く入れるのは一人だけ。
(↑)管制塔内部の操作パネルやスティック。狭くて揺れる甲板に着艦するため着艦拘束装置というのがあるそうです。
艦橋
順路どおり進むと、艦橋(ブリッジ)まで上がることができました。
(↑)ブリッジから船首を望む
(↑)操舵輪。思いのほかシンプル
(↑)海では「度分」表示。以前、海保の方から聞きました。
位置の「秒」表示は船のサイズからみて不要なのでしょう(1秒は距離にして約30m)。「度分秒」では北緯42度37分51.4秒、東経141度37分27.9秒となり、苫小牧西港の南埠頭3号岸壁の海上ピッタリです。ボックス側面には「位置誤差12m以内」と書いてありました。
(↑)階段を下りていくと「艦長室」がありました。
(↑)各所にこんなプレートが…。
それでは離艦します。ありがとうございましたっ。
おわりに
とても間近かな距離で、艦載ヘリコプターSH-60J を観察することができました。いまでは、後継機で高性能メインローターシステムなどを持つSH-60Kの機数の方が多いそうで、機会があれば見てみたいものです。軍用ヘリコプターは、後付け・外付けされる装備や改良部分が多く、ゴツゴツしていますね。その武骨なところが好きな方々も多いのでしょう。
消防防災ヘリコプターなどに言えることですが、県や市でヘリを導入する際に、どうせならこの機会にあれこれ付けておきたいなーって装備をどんどん増やしていくと、調達金額だけでなく重量も大きく増加してしまいます。そして肝心の災害救助になると、自重が重くて人をあまり乗せられないという、本末転倒のハナシに実際なっていたりします。1つで多機能な道具はそれなりに便利なのですが、単機能しかなくてもその機能を突き詰めた道具には結局かないません。「多目的」とか「汎用」というのが必ずしも良いとは限らないのです。
軍事的なことには素人ですが、SH-60J を見ていてフトそんな想いが浮かびました。
※ 写真はすべて、2018年8月3日および4日、やぶ悟空撮影