32年前に廃線となった国鉄広尾線の大樹駅に、こんなパラボラアンテナがあります。今年、大樹町にロケット打ち上げを見に行って見つけました。いったい何に使われているんだろ?
「宇宙のまち」としてのモニュメント? それにしては上手く出き過ぎで、いかにも本物らしく見えます。大きなパラボラ主反射鏡の正面中央に副反射鏡を設けたカセグレン・アンテナのようです。背面にはカウンター・ウエイトが付いています。
▲旧大樹駅付近(Googleマップより)
Googleマップに写ったアンテナは南を向いているようですが、私が訪れた4月30日は東向きの低仰角でした。そちらは浜大樹の方向で、飛行場やロケット射場があります。もしや、打ち上げるロケットを追尾するためのアンテナか?
▲アンテナ背面
結局、この日はMOMO3号機の打ち上げが延期となってしまい、アンテナのことも分からないまま帰宅しました。
4日後の早朝、MOMO3の打ち上げ大成功を目の当たりにした後、再び大樹駅を訪れると、アンテナの向きが変わっていました。動くんだ! やはり本物で、運用されているようです。
▲駅舎となりで、天頂を向けられたアンテナ
駅には「大樹駅」のほかに「北海道衛星株式会社」の文字が掲げられています。鍵がかかった駅舎の中はガラス越しにパネルなどが見えましたが、無人でガラ~ンとしていました。
「北海道衛星~」って、なんだろ? 2004(H16)年12月に設立された大学発ベンチャー企業のようです。大樹町のこの駅舎が本社で、2005年10月に開所式が行われました。
(北海道衛星株式会社についてはコチラをご覧ください)
アンテナは真上に向けられ、天頂で固定されているようです。この手のパラボラアンテナは、通常この姿勢で台風などの強風に耐えるのが一般的です。
▲十勝の青空に映えるアンテナ。5月4日07時34分
技術的な話を少し。オレンジ色と黄色の軸線を書き加えました。これら2軸の回りにアンテナを動かすことができる「X-Y駆動方式」という、低軌道衛星やロケットの追尾に適した構造です。静止衛星通信などによく用いられる「AZ-EL駆動方式」では天頂付近の追尾に不都合が生じるのです(詳細は省略)。
- AZ : Azimuth angle、方位角
- EL : Elevation angle、仰角
写真にある4つの黒いものは、よく見るとファンのようです。白く塗装してあるとはいえ扉の中はかなり暑くなるでしょうから、受信機を守るため換気ファンは必須でしょう。
▲アンテナベース
ケーブル引き込み/出しはこれ1本だけですか? 電力線は別ルートかもしれません。
帰宅後、あれこれ調べて少し分かってきました。このアンテナは…
- 人工衛星データ受信地球局用アンテナ
- 2011(H23)年8月、東京大学と次世代宇宙システム技術研究組合が設置
- 駅舎内の地球局設備で運用。無人で遠隔操作(インターネット回線経由で東京大学運用室へ)も
- 直径4メートル級(3.8m)のカセグレン型パラボラアンテナ
- SHF帯の Xバンド周波数でミッションデータを受信
(SHF : Super High Frequency、周波数 3~30GHz) - 天頂方向の特異点を回避するX-Y駆動方式
- アンテナ部質量:460kg、全備質量:約4.2トン
- f/D = 0.25 で開口角180°(アンテナ専門家向け)
また、こんな記事も見つけました。
東京大学が中心となり多くの大学・企業と進めている「ほどよしプロジェクト」では、50kg以下の超小型衛星を使って「安い・早い」をモットーにした新しい宇宙開発・利用を目指しており、その一環で昨年、大樹町にも衛星からの電波を受信するアンテナを設置させていただきました。(大樹町航空宇宙ニュース、No.3 H24.6、大樹町役場企画課発行 より引用)
注)「ほどよしプロジェクト」は5年ほど前に終了しています。次世代宇宙システム技術研究組合、超小型衛星センターなどをご参考に。
ダウンリンク(衛星→地上)専用のアンテナらしいですね。アップリンク(地上→衛星)で送信しようとすると電波法や関連規則による制約が厳しく、無線局として維持していくだけでも大変ですから…。
まとめ
このアンテナは、低軌道の超小型衛星からのデータ受信用として設置されたものであることが分かりました。衛星へのコマンド送信などアップリンクには対応しておらず、また、衛星の状態を監視するテレメトリ受信も周波数帯が異なるため、JAXA/ISASなどの設備を用いるようです。大樹町のアンテナは、各大学が所有するアンテナ設備などと共に運用され、上空を高速で通過する衛星を追尾しながらその間にミッションデータを受信して、地上インターネット回線を経由して衛星運用センターへ送るという仕事をしています。
- JAXA : Japan Aerospace Exploration Agency、宇宙航空研究開発機構
- ISAS : Institute of Space and Astronautical Science、宇宙科学研究本部
今後は超小型衛星の需要が増えることが予想されるでしょうから、それに伴ってこのアンテナが活躍する機会も増えることを期待しています。MOMO3号機の打ち上げ成功により、新たなロケット発射場建設の計画も進む「宇宙のまち」大樹町、応援しています、がんばれ!
▲人工衛星データ受信地球局アンテナと旧大樹駅
※ 写真はすべて、2019年4月30日および5月4日、やぶ悟空撮影
コメント
なるほど。よく観察してますね。
パラポラアンテナ好きなもので…。しみずさん、コメントありがとうございます。
○○さんからお聞きかと思いますが、ANTONOV AN2が美唄に来ます。16日15:30予定です。
ご興味あれば。
しみずさん、情報ありがとうございます。ぜひ、An-2を直接見てみたいです。当日うかがいます。
色々とお調べ頂き嬉しいです
▲アンテナベース
ケーブル引き込み/出しはこれ1本だけですか? 電力線は別ルートかもしれません。
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今は使われてるかわかりませんが
アンテナ(足元)土台上側にライトがあり
20時頃まで ライトアップする為の電力線になります。
雪の時期はこんな感じです
(画像添付しました)
大樹町アンテナさん、
教えていただきありがとうございます。冬景色にも似合うアンテナですね。