丘珠空港のレーダーです。このレーダーを使った「ターミナルレーダー管制」が行われるようになって、はや11年が過ぎました。今回は丘珠空港・札幌飛行場に着目します。
丘珠のレーダー
丘珠空港といわれる「札幌飛行場」は、防衛大臣が設置・管理する軍民共用の飛行場です。滑走路は14/32で、長さ 1500m(幅45m)と短いのですが、北海道エアシステムのターボプロップ機 SAAB340Bだけでなく、フジドリームエアラインズのエンブラエル・ジェット ERJ-170/175も冬期間を除いて就航しています。管制業務は、陸上自衛隊 北部方面管制気象隊が行っています。
▲ 札幌飛行場のレーダーと管制塔、背後に「つどーむ」が近い
これは、ターミナルレーダー管制の導入に当たって防衛省が設置した空港監視レーダー(ASR)です(2008年3月完成)。もちろん SSRも併設されていますので、ASR/SSRと書くほうが正確です。ASR/SSRでレドームがあるのはめずらしい気がしますが、特に冬季の風雪や寒気からアンテナやその駆動系を保護するためでしょう。でも、航空局の函館ASR/SSRにはレドームがなく、アンテナむき出しなのですが…。
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- ASR : Airport Surveillance Radar、空港監視レーダー
- SSR : Secondary Surveillance Radar、二次監視レーダー
このレーダーは背が高めのようです。コミュニティドーム「つどーむ」の鉄骨構造による電波の悪影響を避けるためでしょうか。これだけ大きい金属構造物がレーダーの近くにあると、思わぬ方向や距離に航空機のエコーが映ったりする ゴーストが生じることがあるのです。
▲ ディスコーン・アンテナ
鉄塔の中段に、多数のディスコーンアンテナが並んでいました。disc+coneで discone、その名のとおり円板と円錐を組み合わせたような形状で、周波数帯域がとても広いアンテナです。大きいのがVHF用、小さいのはUHF用でしょう。ターミナルレーダー管制の通信用なのでしょうか。管制塔の屋上のアンテナもディスコーンでした。
進入管制区
札幌飛行場にターミナルレーダー管制が導入されたのは、平成20(2008)年11月20日のことです。それ以前は「飛行場管制業務」と「着陸誘導管制業務」が行われていましたが、加えて「進入管制業務」と「ターミナルレーダー管制業務」が始まったのです。
・飛行場管制業務:
飛行場を中心に半径5nm(9km)の円筒状の空域を「管制圏」といい、管制圏内を飛行する(地上走行も)すべての航空機の管制を行うのが飛行場管制で、札幌飛行場では「札幌タワー」というコールサインです。札幌飛行場の管制圏の上限は高度4,000フィートに設定されています。
・着陸誘導管制業務:
その名のとおり、着陸機を滑走路付近まで誘導する GCA です。IFR機をレーダーで見ながら無線の音声で誘導します。ターミナルレーダー管制のASR/SSRとは別のレーダー(PAR)を使います。
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- GCA : Ground Controlled Approach、着陸誘導管制
- IFR : Instrument Flight Rules、計器飛行方式
- PAR : Precision Approach Radar、精測進入レーダー
・進入管制業務:
レーダーを使わずにIFR機の進入管制を行います。進入管制といっても、進入機だけでなく出発機も対象です。「進入管制区」内を飛行するIFR機に対し、進入・出発の順序を決め、飛行経路や上昇・降下などの指示を出します。
・ターミナルレーダー管制業務:
レーダーを使って進入管制を行うと「ターミナルレーダー管制」になります。レーダー画面上に航空機が表示されて管制間隔を縮小することができ、トラフィックが多くなっても安全で効率の良い運航ができます。
この ターミナルレーダー管制業務を札幌飛行場で行うにあたり、その範囲として 札幌進入管制区が設定されました。
▲ 札幌進入管制区
羊蹄山が南の境界です。東は滝川滑空場が進入管制区内にすっぽり入っています。上限高度は 大部分が11,000フィートですが、旭川空港に近付くにつれて 8,000フィート、7,000フィートと下がってきます。この空域設定は 2008年当初から変わっていないようです。札幌飛行場にあるASR/SSRは、札幌進入管制区を飛行する航空機を監視するためのレーダーなのです。
北海道には、札幌のほかに千歳と函館の進入管制区が設定されています(青森県の三沢進入管制区が函館進入管制区と接していますが、この図では省略しました)。
▲ 北海道の進入管制区
これら3つの空域は千歳進入管制区を挟んで接していて、一部は重なっています。平面だけでは分かりにくいので、航空路で切った断面図を作成しました。
▲ 北海道の進入管制区<高度概念図>
これらの進入管制区より高い空域は航空交通管制区として札幌航空交通管制部(札幌ACC)が航空路管制を行います。(進入管制区も航空交通管制区に含まれる)
千歳の管制圏(CTZ)の高度は、新千歳空港(RJCC)が標準的な3,000フィートですが千歳飛行場(RJCJ)は6,000フィートに設定されており、それぞれ別の飛行場なので管制圏の中心が少しずれています。また、千歳進入管制区内には 特別管制区や TCAが 非常に複雑に設定されています。
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- ACC : Area Control Center、航空交通管制部
- CTZ : :Control Zone、管制圏
- PCA : Positive Control Area、特別管制区
- TCA : Terminal Control Area、ターミナルコントロールアエリア
千歳と函館の進入管制区の図も、併せて作成しました。
▲ 千歳進入管制区
国内有数の高密度空域で、一部は札幌と函館の進入管制区の上に覆いかぶさっています。よく見ると新篠津付近の上空8,000~16,000フィートに、ごく小さな三角空域があるのですが、なんでこんな設定にしたんだろ。実際の飛行には影響ないと思いますが…。
▲ 函館進入管制区
輪郭は複雑ですが、上限高度は一律13,000フィートで分かりやすいです。
いずれも概念図として描いたもので、正確ではありませんのでご承知置きください。2019年11月7日有効のeAIP情報を基に、地理院地図に書き加えました。
他にもある丘珠のレーダー、そのハナシは…
2 につづく
コメント
千歳基地のASRはレドームついてますね。
函館ASRはレドームがありませんので、冬季間は凍結防止のため夜間も回ってます。
丘珠のPARにはレドームがありませんが、那覇空港のPARはレドームがついてます。
アンテナがくるりと回るのは同じですがアンテナ形状が違うようです。
製造会社が違うのかな?
レドームの有無は、凍結や塩害の防止、風圧回避などアンテナを守るためさまざまな事情がありそうです。防衛上見られたくないって場合もあるンでしょうね。CJさん、いろいろな情報ありがとうございます。
丘珠のASR、良く見ると、頂点から2本のロープのようなものが垂れています。
何の目的かと思ったら…あれでレドームに着いた氷雪を隊員さんが人力でこすり落とすんですよね…たまに見かけます。
PARの方も、べた雪が付くと人力で雪落とししています…
レドームのロープは、自衛隊も航空局も、衛星通信の地球局にも、必ず付けられているようですね。PARの除雪シーンは見てみたいな。RJCOさん、コメントありがとうございます。