大樹町の夢

昨年、令和に変わって間もない2019年5月4日に高度100kmを超える宇宙空間への到達を成し遂げたロケット「MOMO3号機、その発射場となった大樹町は大きく湧きました。町はこのほど「宇宙のまちづくり推進事業 実施報告書」を公表しました。

(写真は、大樹町の観光パンフレット<7~8ページ>より)

はじめに

2020年1月下旬に大樹町が公表したこの報告書は、目指す「北海道スペースポート構想」の実現に向け、具体的な検討結果がまとめられています。根拠の乏しいような夢物語を並べ立てたものではなく、現状の課題を整理した上で今後必要となる施設や環境への影響などについて、複数の提案に現実的な検討を加えており、よくまとめられていると感じました。

平成28年度~30年度、大樹町多目的航空公園を活用した地域活性化方策及び施設整備検討調査並びに環境影響評価の実施業務、報告書」(以下、「報告書」)として平成31年3月の日付で大樹町がとりまとめた報告書から、主として「施設検討編」を読んでみることにします。

滑走路

いま「大樹町多目的航空公園」には、1,00030m の舗装された滑走路08/26があり、飛行場ではなく「場外離着陸場」として利用されています。この滑走路を300メートル延長して 1,30030m にし、そのほかにも 3,00045m の滑走路を新設しようとするものです。滑走路2本?

滑走路の延長

▲ 滑走路延長案(報告書 3-15ページ)

報告書では、延長方向の異なる3案を比較した上で両側を延長する上図の案が有利とまとめられています。なぜ、滑走路長を 1,300メートルとしたのでしょう?

前提として、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の実験用航空機、セスナ680(サイテーション・ソブリン)を改造した「飛翔」の離着陸を想定しています。このサイテーションで算出した必要離陸滑走路長が1,260メートルとなったために 1,300メートルとしたそうですが、その条件の一つである夏期平均気温を 24℃としています。いいのかな?

JAXAの実験用航空機「飛翔」(JAXAデジタルアーカイブス)

アメダス大樹のデータでは、気温25℃以上の日数が30日を超えた年が過去10年中に7年もあったこと、日最高気温ベストテンがすべて34℃以上であり近年の夏(2010、2015、2017、2018年)も含まれていることなどを考えると、1,300メートルの滑走路ではJAXAの実験中に滑走路長不足のためサイテーションが離陸できない…という状況が生じかねません。気温が10℃高くなると離陸滑走路長が1割ほども増加しますから。

ここはマージンをもう少し確保して滑走路長1,500メートルは欲しいところです。他の機種などで実験を行う要望がないとも限りませんし、延長する距離を300mから500mにしたところで工費が倍になるわけでもありませんから。

新設される滑走路

スペースポートを目指すには、空中発射ロケット用の母機や本格的な宇宙往還機の離着陸にも対応可能な長い滑走路が必要になると考えられます。現滑走路を大幅に拡張するには滑走路08側の延長上にある丘陵地が進入表面に抵触するそうなので、新たな滑走路を整備する方針で報告書はまとめられています。

長さ3,000m×幅45mと大型機が発着できる滑走路サイズですが「場外離着陸場」とし、近隣の帯広空港との住み分けを明確にしています。滑走路方位の異なる3案の比較検討の結果、現滑走路と平行な08/26が採用されています。

▲ 滑走路新設案(報告書 3-60ページ)

延長される現滑走路と新設滑走路との位置関係はこのようになります。3,000m滑走路に沿った長い軌道(レール)も敷設され、各種実験への利用が期待されています。これらの位置をGoogleマップで確認してみました。

▲ 2本の滑走路案(Googleマップに加筆)

3,000m滑走路の位置は、現在は幅が約150メートル長さ数キロメートルにわたって防風林が立ち並ぶ広いベルト地帯です。Googleマップの写真では、すでに滑走路が存在しているかのように見えています。

3,000m滑走路計画場所(Googleストリートビュー、西側から東方向を見る)

この場所なら、滑走路造成も容易そうです。さらに延長する必要性が出てきた場合でも対応が可能でしょう。

気になるのは、場外離着陸場とはいえ滑走路2本を維持管理することの非効率性かな。制限表面は地形に関わるので現滑走路の延長はあきらめざるを得ませんが、計画段階で先々の拡張性も考慮しておくことの重要性を示しているような気がします。

ロケット射場

すでにIST(インターステラテクノロジズ)の「MOMO3号機が大樹から宇宙に到達しており、次のIST軌道投入ロケット「ZERO」の打ち上げ目標時期が定められていることから、まずは第一段階として「ZERO」の射場となる L1(Launching site-1)を整備することにしました。場所は現在の「MOMO」射場付近で、「ZERO」の場合も「MOMO」と同じ保安距離1.5kmと算出されています。L1の射点整備は「ZERO」に間に合うよう、早急に始める必要がありそうです。

L2候補地(報告書 4-36ページの図に加筆)

第二段階としてはイプシロン級ロケット(JAXA)規模の射場とし、保安距離を2kmと想定して4か所が提案されていますが、絞り込まれてはいません。太平洋に面して東から南にかけて開けている大樹町、その「地勢の優位性を活かす」とは、どういうことなのでしょうか?

一般に、ロケットは人工衛星を宇宙空間に運ぶための道具といえます。人工衛星が地球を周回するには速い速度が必要です。ロケットは、地上からの高度を確保するだけでなく、人工衛星を十分な速度まで加速する役割も持っています。

静止軌道(赤道上空の高度約36,000km)に衛星を投入する場合などでは、地球の自転速度を利用するため東に向けて発射すると効率が良いのです。赤道付近ほど地球表面の回転速度が大きくなるので、静止衛星の射場は低緯度地域が有利とされます。

一方、今後も需要が多いと考えられる地球観測衛星などでは、南極と北極付近を通る高度数百kmという縦回りの低軌道が使われます。この軌道に投入するには、ロケットを南に向けて打ち上げることになります。

軌道傾斜角55度というGPSのような軌道もありますが、東から南にかけて開けている大樹町では、どんな軌道でもほぼ対応できそうです。これが「地勢の優位性」ということです。それだけなら日本中の太平洋沿岸どこにでも候補地がありそうですが、半径数kmという広い保安距離を確保できる人口密度の薄さや、帯広空港や十勝港から近く周辺の道路なども整備されていることなど、ロケット射場として有利な点が多いということでしょう。

ただ、何でも可能で推すのではなく、不利な静止軌道投入を諦めるなど用途を絞り込んだ営業を目指し、それに合わせた整備でコストを抑える方向性が望ましいような気がします。

おわりに

報告書では全体図が示されており、段階を踏んだ整備計画が示されています。

▲ 全体計画(L2は未定)(報告書 5-13ページ)

大樹町の人口は わずか5,500人ほど。そんな小さな町が30年以上前から目指してきた「宇宙のまちづくり」が「MOMO」の宇宙到達成功にまでこぎつけました。この盛り上がりを大事にして、大樹町や宇宙関連企業の活動に留まることなく、道や国の支援に加え広く国民の支持も得ながら「北海道スペースポート構想」の実現に向けた方策を練って前に進めていただきたいものです。

夢は正夢