「お知らせ」すること、しないこと

防衛省や陸海空自衛隊の情報公開や公表の仕方に少し疑問を持ちました。航空事故に着目して、そのあたりを見てみます。(写真は LR-2の前脚、2018年8月12日、やぶ悟空撮影)

旭川でヘリ横転事故

今月(2020年2月)の7日、陸上自衛隊 旭川駐屯地で、UH-1Jヘリコプターの横転事故が発生しました。機長は軽傷、副操縦士が重傷(頭蓋骨骨折、肺挫傷および脳出血で意識がない状況)だったようですが、その後、意識は回復したそうです。

UH-1J、この写真にはないが事故機はスキーを装着していた(2019年7月7日、やぶ悟空撮影)

この事故について、防衛省や陸上自衛隊のwebサイトから情報を得ようとしましたが、プレスリリースは見付けられませんでした。何も公表していないのでしょうか?

よ~く探してみると、7日の防衛大臣記者会見の中で、9時35分ごろ陸自UH-1Jヘリコプターが旭川飛行場でホバリング中に横着したと発表した記録がありました。その後10日の記者会見で防衛大臣は、ホバリング訓練中に一度接地しながら横転したこと、機体に特に異常はなかったこと、ホバリングその他で雪によって視界不良の状況だったことなどを記者の質問に答えました。さらに14日の記者会見の質疑応答で、副操縦士の意識が回復したがヒアリングは少し落ち着いてから、と発言していました。

大臣が口頭で説明するだけではなく、また質疑応答で記者に質問されてから答えるのではなく、陸自からプレスリリースとして国民に公表するのがスジってもんじゃないの?

航空事故のプレスリリース

自衛隊機の事故が発生したときは、必ず「お知らせ」などで公表されるものと考えていましたが、過去のプレスリリースなどを調べてみるとそうではないようです。

自衛隊機の事故について、旭川での事故から2017年までさかのぼってリストアップしてみました。(2020年2月20日現在、やぶ悟空調べ)

  1. 2020.02.07  UH-1J  陸・旭川(重傷1)プレスリリース:なし
  2. 2019.06.21  UH-1J  陸・立川(死者なし)プレスリリース:なし
  3. 2019.04.09  F-35A  空・三沢沖(死者1)プレスリリース:
  4. 2019.02.20  F-2B  空・山口沖(死者なし)プレスリリース:
  5. 2018.11.02  F-2A×2  空・長崎沖(死者なし)プレスリリース:
  6. 2018.02.05  AH-64D  陸・佐賀(死者2)プレスリリース:
  7. 2017.10.18  F-4EJ改  空・百里(死者なし)プレスリリース:なし
  8. 2017.10.17  UH-60J  空・浜松沖(死者3、不明1)プレスリリース:
  9. 2017.08.26  SH-60J  海・青森沖(死者2、不明1)プレスリリース:
  10. 2017.08.17  CH-101  海・岩国(死者なし)プレスリリース:なし
  11. 2017.08.17  AH-1S  陸・東富士(死者なし)プレスリリース:
  12. 2017.05.15  LR-2  陸・函館近郊(死者4プレスリリース:なし

プレスリリースする・しないに一定のルールのようなものが見えてくるかと期待しましたが、残念ながらはっきりしません。すべての事故がプレスリリースされたわけではないし、死者のなかった事故でもプレスリリースされたこともありました。少なくとも死者が発生した事故はきちんと発表されるものと考えていたのですが…。

引っかかったのは、いちばん下の行(12)です。

公表されなかった LR-2事故

2017年5月に函館近郊で墜落し、搭乗していた4名全員が亡くなった連絡偵察機LR-2(双発の固定翼機)の事故(12)については、陸幕(陸上幕僚監部)からの情報が何も出ていません。その3か月後に発生した、AH-1S対戦車ヘリコプターがホバリング中に落着(搭乗員2名の人命に影響なし)した事故(11)では「陸上自衛隊ニュースリリース」として2回にわたって陸幕広報室から「お知らせ」が出されたのに、4名もの隊員が亡くなったLR-2事故の「ニュースリリース」がないのは、なぜ?

このLR-2(キングエア350と同じ)の事故は、緊急患者を空輸するため札幌飛行場(丘珠)を離陸して函館空港へ進入中に発生したものです。道内で発生した事故でもあり、実はかなり注目していました。事故発生直後、陸幕からではなく防衛省から「お知らせ」として「通信ロストについて」と「捜索について」の情報は出ていました。

LR-2事故に関する20175月の情報、赤丸加筆(防衛省・自衛隊 webサイト)

報道資料プレスリリースお知らせ2017(平成29)年5月 と入っていくと、いまも見ることができます。これらの情報は「連絡が途絶し、状況を確認中」という通信ロストと、不明機の「捜索状況」を時系列で羅列しただけの内容です。ごく初期段階の内容にとどまっており、「機体らしきものを発見」して「要救助者計4名を搬送」したところで終わっています。事故が発生した15日と翌16日の2日間の「お知らせ」なので、まだ事故の状況などが把握できていない段階ですから、その時点ではやむをえないでしょう。

問題なのは、この後に事故に関する情報が一切何も公表されていないことです。死亡した4名の氏名や年齢などが報道されていることから報道関係者にはある程度の情報を発表したのでしょうが、それで十分と考えたのでしょうか? そして4か月後の9月13日、陸自の航空事故調査委員会が事故調査結果を発表したようですが、これも報道から分かっただけで、発表された内容は公表されていません。事故に至った経過や事故原因、再発防止策などは、いまだに「お知らせ」されていないのです。

防衛大臣記者会見、防衛省のプレスリリース、陸上自衛隊のプレスリリースのいずれにも、LR-2の事故調査結果について公表された形跡は見つけられませんでした。

取り扱いの違い

平成29(2017)年度は、陸海空の自衛隊とも航空事故の多い年でした。陸自で3件、海自と空自でそれぞれ2件(計7件)の自衛隊機事故が発生しました。しかも、そのうちの4件が死亡事故で、行方不明者を併せると計13名もの隊員が失われています。

この間に起きた、海自SH-60J、空自UH-60J、陸自AH-64Dという3件のヘリコプター事故に関しては、それぞれの情報がこまめに提供されました。8月に発生したSH-60J事故(9)では第11報まで、10月に発生したUH-60J事故(8)では第10報まで、そして 2月に発生したAH-64D事故(6)では第7報までに加え、放射性物質の測定結果などもニュースリリースとして出されています。UH-60JAH-64Dの事故については、数か月後に出された航空事故調査結果から、事故の経緯、原因、再発防止策を簡単に要約した資料も見ることができます。

LR-2(2018年8月12日、札幌飛行場で、やぶ悟空撮影)

それなのに、死者4名も出したLR-2連絡偵察機の事故に関する陸自のニュースリリースは出されず、事故調査結果も報道関係者以外には公表されていないことが不思議でたまりません。

この2月に旭川駐屯地で発生したUH-1J横転事故(1)や、昨年6月に立川駐屯地で発生したUH-1Jの着陸失敗事故(2)についても、死亡事故ではないものの何の「お知らせ」もないまま現在に至っています。東富士演習場で起きたAH-1Sの落着事故(11)はニュースリリースしているのに、陸自のこれらの取り扱いが異なっている理由を知りたいものです。

おわりに

いま、日本国内でも新型コロナウィルスの感染がじわじわと拡がっている気配です。いつ、どのタイミングで、どの程度の内容まで情報を開示するのか、関係者は気を遣っていることでしょうが、国・厚労省と自治体や国民の間でかなり温度差がありそうです。道内で発生した陽性患者に関する情報提供についても道の対応に疑問が投げかけられています。適時適切に情報を発信することの難しさは、ある程度は理解できるつもりですが、基本となるのは正しい情報を直ちすべて公表するということでしょう。

航空事故はいったん起きると続く…と言われた時代がありました。2017年の自衛隊機事故をみると、今もそう感じる方々がいるかもしれません。もちろん事故そのものが伝染するわけではありませんが、この程度なら公表しなくてもいいかな…などという組織としての身勝手な保身意識がどこかに潜んでいるとしたら、それはとても感染力の強いウィルスのようなもので、すでに蔓延している組織が少なくないかもしれません。

事故を減らし被害を軽減するために有効な方法の一つとして、「失敗から学ぶ」ということがあります。そのためにも事故調査が行われるのですが、事故調査結果を公表しなければ学びようがありません。関係者間という狭い範囲だけでなく広く共有してこそ活かせる情報であり、ある意味「命を懸けて」教えてくれた貴重な情報なのですから有効に活かしていかなければならないでしょう。