退くハヤブサ

新千歳空港にファルコン900が駐機しています。一見すると海保ペイントなのですが、何か違うな…。あれっ、「N」ナンバーになってるゾ。

海保のファルコン

Falcon 900N880EC

ダッソー・ブレゲーミステール・ファルコン900(Dassault-Breguet Mystere Falcon 900)という固定翼3発ジェット機が、N880EC と米国籍になっています。海上保安庁が売却したのでしょうか。調べてみると、Dodson International Parts, Inc.という航空部品の会社(カンザス州)が昨年(2019年)11月に入手してNナンバー登録したようです。きっと部品取りにされてしまうンだね…。

ファルコン900(出典:海上保安庁ホームページ「海上保安庁の航空機」)

ファルコン900は、海上保安庁が1989(平成元)年に2機導入した初の固定翼ジェット機だったと記憶しています。この機体は JA8571 として登録され、海保では LAJ571LAJ : Large Airplane Jet)といわれます。もう1機は JA8570LAJ570)です。

日米SAR協定の締結に伴って、より広範囲な海域での捜索救助活動に対応するため、2機のファルコン900が羽田航空基地に配備されましたSAR : Search and Rescue)。その後、2004(平成16)年度からのガルフストリームG-V 2機(JA500A、JA501A)の就役までの長きにわたって羽田航空基地で働きましたが、2005年以降、ファルコン900は那覇航空基地に配属換えとなりました。那覇航空基地では「ちゅらわし」と名付けられました。falcon(ハヤブサ)なのに、ワシ(eagle)とは…。

この機が製造されたのは 1988年(製造番号 56)なので、もう30年以上経過しています。捜索のため海上を低高度で飛行する任務も多かったでしょうから、機体にとっては厳しい環境でしたね。2019年9月に海保を退役し、11月に抹消登録されました。最後の勤務地が那覇だったということは、沖縄本島から西に400km以上離れた尖閣諸島付近を飛ぶ機会もきっと多かったのでしょうね。ファルコンもクルーのみな様も、大変おつかれさまでした。

▲ 消されたマーク(写真小は海上保安庁ホームページ「海上保安庁の航空機」写真から切出し)

退役後の売却にあたっては、機体のマーキングを消去しなければなりません。「LAJ571」や「ちゅらわし」はきれいに消されていますが、機種の両側に描かれていた紺色「字マーク」の一部が残っているのが少し寂しさを感じさせます。

この「」は、海保業務の Security、Search and Rescue、Safety、Survey と、モットーとする Speed、Smart、Smile、Service を図案化したものなのだそうです。(海上保安庁ホームページの解説)

後継機もファルコン

退役した機があれば、引き継いで就役した新型機もあります。ファルコン2000LXS です。登録順に並べてみます。

  • 2019(令和元)年8月登録、JA573A(製造番号 342)、那覇航空基地
  • 2019(令和元)年9月登録、JA572A(製造番号 332)、那覇航空基地

これら2機の 2000LXS 配備により、2機のファルコン900のうち1機を退役させました。それが今回紹介した JA8571(現N880EC)です。

  • 2020(令和2)年2月上旬登録、JA574A(製造番号 345)、那覇航空基地
  • 2020(令和2)年2月下旬登録、JA575A(製造番号 346)、福岡航空基地

計4機のファルコン2000LXSが、すでに海上保安庁に導入されたことになります。那覇航空基地に配属された3機とファルコン・クルーの大幅増員により、尖閣24時間監視体制が整いました。これに伴い、残るもう1機の30年越えファルコン900JA8570LAJ570)も、すでに解役となったようです。

▲ 後継のファルコン2000LXSJA573A(出典:海上保安庁「航空機の愛称決定について」)

新型ファルコン2000LXSは、さらに2機増えて計機になる計画です。納入済みの4機と連番になる JA576AJA577Aが、すでに予約登録(2018.3 および 2019.7)されていました。JA576A機は、今年度中(2021年1月)の登録予定とされています。

ファルコン900は 海保では LAJ(Large Aircraft Jet、大型ジェット機)でしたが、新ファルコン2000LXSMAJ(Medium Airplane Jet、中型ジェット機)とされています。「LAJ」には「最大離陸重量が20,000kgを超えるジェット推進」という定義があるようで、3発ジェットのファルコン900にはギリで当てはまりますが、ほぼ同じサイズながら双発ジェットのファルコン2000LXSは最大離陸重量が 19,414kg と、わずかに外れるのです。それで「MAJ」になったンだろうと勝手に解釈しました。(最大離陸重量<Max. Take Off Weight>は、Dassault Aviationの datasheetより)

エンジンが3基から2基に減っても、エンジン単体の信頼性が向上しているので洋上運用でも心配ないということでしょう。最大航続距離はおよそ7,400kmで 9002000LXSに大差はありませんが、電子機器や特別装備により捜索監視能力は大幅に向上しているようです。ただ、当然ながら価格もアップして「機体本体価格から2倍強」(財務省の総括調査票)の1機あたり100億円を超える(為替レートで大きく変動する)高額な飛行機になっています。B737A320あたりが買える値段か…。

パイロット養成

海上保安庁にこれだけ固定翼機が増えてくると、その要員確保も急がなければなりません。海上自衛隊に委託してきたこれまでの固定翼パイロット養成では間に合わないため、海上保安庁は自前での養成に着手しました。まずは教官の育成のため、2018年に機の単発プロペラ機(172S)を導入して千歳航空基地ベースで訓練を行ってきました(関連記事「海保のディーゼル・セスナ」を参照ください)。

▲ テキストロン・アビエーション式 172S型(2019年8月4日、やぶ悟空撮影)

これら5機の 172Sは、2020年2月1日付で福岡航空基地に配属替えになったようです。第7管区海上保安本部 福岡航空基地は、福岡空港の滑走路増設に絡んで 24時間運用できる北九州空港に移転する計画になっており、「北九州航空基地」となる予定です。移転に併せて航空機乗組員の訓練施設を整備する(西日本新聞 2019/8/31)そうですから、独自の固定翼パイロット養成では まず 172Sで飛び始めるンですね。ファルコンガルフストリームという多発タービン機の技能証明(ライセンス)取得まで数年かかる道のりですが、目標が明確であれば やりがいのある修行になるでしょう。

苫小牧付近を飛ぶ172Sを、目視でも Flightradar24でもたまに見かけていましたが、もう見られないと思うと少し寂しいです。

おわりに

JA8571(現N880EC)は、日本国籍を抹消されてまもなく3か月になります。Nナンバー登録して米国へのフェリー待ちなのでしょう。新千歳空港の停留料は月2万円ほどで高額ではなさそうですが、なかなか日本を離れられないのは新型コロナウィルスの影響なんかが絡んでいるのでしょうか?

※ 特記のない写真はすべて、2020年3月新千歳空港で、やぶ悟空撮影