吹雪のテイクオフ

今回は、新千歳空港にあるレーダーのうち、いちばん高解像度な「ASDE」を探ってみます。写真は管制塔の屋上にあるASDEレドームです。

ASDE とは

航空管制に使われるレーダーはさまざまな種類がありますが、その中で最も解像度が高く、滑走路や誘導路にいる航空機の形まで映し出すことができるレーダー、それが「ASDE」です。もちろん車両も見ることができます。ASDE は Airport Surface Detection Equipment の略で「空港面探知レーダー」と訳します。「アズデ(ー)」とか「アスデ(ー)」などと呼ばれることもあります。

管制塔は360度ガラス張りで視界が開け、飛行場管制業務の守備範囲である半径5nm(9km)以内を飛行する航空機を肉眼で見ることができます。ただし、天気が良ければ、ですが…。雨や濃霧、吹雪の日には、数百メートル先を地上走行する航空機さえ見えなくなることもあります。そんな中、交通量の多い空港において安全で効率的な航空管制を行うために欠かせないのが「ASDE」というレーダーです。

航空局webの情報(2013年4月1日時点。古いな)によれば、ASDEは国内10か所に設置されているとのこと。新千歳、成田国際、東京国際、中部国際、関西国際、大阪国際、福岡および那覇の8空港と、三沢および小松の2飛行場です。今回は、新千歳空港ASDEに注目します。

ASDEの表示

ASDEのレーダー画面は、どんなふうに見えるのでしょう? たぶん1世代前(と思われる)ASDE画面の写真を見つけました。

ASDEの表示(航空重大インシデント報告書の写真に加筆)

黄色が加筆した部分です。管制塔の位置は左下の矢印付近で、管制塔の屋上にASDEアンテナがあります。写真の上が東方向で、左右(南北方向)に長い2本の滑走路や平行誘導路の輪郭がきれいに見えています。レーダーが丸い画面の中心にないことを不思議に思うかもしれませんが、オフセンター表示することができるのです。

もう12年も前になりますが、2008年2月16日に新千歳空港で発生した接近事例の報告書(AI2008-1-2)から写真を使わせていただきました。着陸機が滑走路から離脱する前に、離陸機が滑走を始めた重大インシデントです。雪のため視界がほとんど効かない状態でしたが、管制官がASDE画面を見て気付き、すぐに離陸中止を指示したのです。ASDEが重要な役割を果たした瞬間でした。

降りしきる雪の中、滑走路内で離陸指示を待つ747。滑走路の先にいるはずの着陸機は吹雪で全く見えない。次の到着機が後ろに迫っている状況で耳に飛び込んできた管制官の「…immediate take-off」の声。この航空重大インシデントは、航空関係者に多くの貴重な教訓を与えてくれています。

ASDEのアンテナ

管制塔の屋上にある白いボール(レドーム)の中にASDEアンテナが入っているのですが、直に見ることができる機会は、まず無いでしょう。そこで、メンテナンスを行う航空保安施設信頼性センターのwebサイトに掲載されている ASDEアンテナの写真を引用させていただくことにします。

ASDEアンテナ(航空保安施設信頼性センター、撮影日不明)

一般的な航空管制レーダーで、細かいところまで映し出す能力(分解能)を表すとき、方位と距離の要素に分けて考えます。「方位分解能」と「距離分解能」です。そのうちの方位分解能は、アンテナの性能に大きく依存します。

ASDEは水平面のアンテナビーム幅が0.3度というシャープさですが、水平ビーム幅を鋭く絞るためにパラボラ反射面を左右に大きく広げているのが「主反射鏡」です。

その正面の、上から伸びたアームの先に「副反射鏡」が取り付けられています。残念ながらこの写真では副反射鏡がよく見えませんが、垂直の放射パターンを決める重要な部分です。

アームの中ほどに「一次ホーン」が見えています。電波を出したり受けたりする部分が円形なので、円偏波であることが分かります。

ASDEのアンテナ

アンテナの回転数は 60rpm、つまり1秒間に1回転します。高速で回転するため定期的なメンテナンスが重要です。

ASDEの性能

名前のとおり空港面の範囲内で探知できればいいので、最大探知距離は数キロメートル程度しかありません。周波数は非常に高いマイクロ波のSHF帯で、日本では24.5GHz付近が使われています(総務省の電波利用ホームページでは 24.35~24.65GHzとされている)。実は、この辺りの周波数は雨に弱い(降雨減衰が大きい)のです。視界の良くない雨や霧、雪の日こそがASDEの出番なので、降雨減衰を想定して余裕を見た設計がなされています。米国の ASDE-Xや ASDE-3では、もう少し雨の影響が少ない低めの周波数帯が使われているそうです。

方位分解能はアンテナに依存するとしましたが、もうひとつの距離分解能を上げるには送信パルス幅を短く(20ns)する必要があり、そのため高い周波数を使っています。方位分解能・距離分解能ともに、アンテナから0.5nmの距離で10メートル以内のハズ。ざっくり言うと、管制塔から約1キロ離れた場所で、互いに10m離れている航空機や車両を識別できるという能力です。

  • ASDE : Airport Surface Detection Equipment、空港面探知レーダー
  • GHz : Gigahertz、ギガヘルツ(1GHz = 10億Hz)
  • nm : nautical mile、海里(1nm = 1852m)
  • ns : nanosecond、ナノ秒(1ns = 10億分の1秒)
  • rpm : revolutions per minute、毎分回転数
  • SHF : Super High Frequency、センチメートル波

で、新千歳のASDEは

2019年7月1日の官報に「ASDE-14A型」装置の製造を三菱電機㈱が落札(8億6400万円)したという情報が掲載されていました。今年度に中部国際空港で更新予定のASDEでしょう。この「-14A」が最新モデルのようです。

▲ 千歳タワーと ASDEレドーム

2014年の三菱電機技報に、新千歳空港の新型ASDE情報が載っていました。2014年時点の「新型」ですから「A」の付かない「ASDE-14型」かもしれません。新千歳空港では、千歳飛行場と併せて航空管制業務を防衛省が行っており、ASDEも防衛省が設置、管理しています。

三菱電機技報・Vol.88・No.1・2014「新千歳空港 新型空港面探知レーダ装置の完成」より

この新型ASDEのビデオ表示写真が掲載されていたので、引用させていただきました。滑走路や誘導路、エプロンなど、反射電波が戻って来にくい部分は黒っぽく映ります。着陸帯は草や地面で電波が反射して輪郭が現れてきます。

クライストロンという真空管を使って「ビデオの鮮明度を向上させることに成功した」と技報に書かれていました。昔は 航空路監視レーダー(ARSR)や 距離測定装置(DME)にもクライストロンが使われていましたが、近年では半導体化されています。ASDEが使用する20GHz帯では、クライストロンの方が扱いやすいのかもしれません。

▲ 航空機の情報表示例

他のレーダーシステムやマルチラテレーション、飛行計画の情報などをASDEに取り込んで処理することにより、便名や速度など多くの情報を表示することが可能になりました。具体的には…

  • 位置 …●印
  • 便名 …日本航空519便
  • 型式 …ボーイング777-200型
  • 後方乱気流区分 …H(Heavy)
  • 速度 …対地速度:13.5ノット
  • 高度(空域の場合)
  • 出発/到着 …青色:出発機/黄色:到着機

を航空機にタグ付け表示するようです。さらに、

  • 着陸滑走路への到達予測時間
  • 航空機同士の接近警報
  • 滑走路の使用状態

を表示することもできるとのこと。加えて滑走路状態表示灯(RWSL)の点灯/消灯の制御も行うそうです。RWSLは滑走路にある信号機のようなもので、管制官の手を煩わせることなくレーダーや他のセンサーで航空機を検出し、自動的に赤信号(路面の灯火)が点いたり消えたりするシステムです。

  • RWSL : Runway Status Light System

新千歳のASDEは2012年度中に納入が完了し、RWSL機能の評価を経て2014年に正式運用が開始された模様です。もう6年になるンですね。

空の安全確保は必ずしも空中だけに限りません。新千歳空港のASDEは、飛行場面の安全を守るツールとして北国の管制業務を支えています。

▲ 千歳タワー

※ 特記のない写真はすべて、2020年1月~3月、やぶ悟空撮影

コメント

  1. アバター 通りすがり より:

    最近ASR/SSRをTSRと呼ぶようになりましたね。
    TSRは、ICAOの名称なのでしょうか?

    • やぶ悟空 やぶ悟空 より:

      私は「TSR」というレーダーの略語を知りませんが、たまに目にするようになりましたね。「ASR」のことを「TSR」と言うようになったのか、それとも「ASR/SSR」のことなのか、実はよく分かりません。
      2019年に日本電気(株)が「TSR-17型空港監視レーダー装置」の製造を落札したことが公表されています。それならASRのことなのかと一時は思いました。
      ところが2012年11月の国土交通省の資料には、「TSR (Terminal Surveillance Radar:空港監視レーダー装置)」として、「空港近辺に設置され、空港周辺空域を飛行する航空機のPSR情報およびSSR情報を取得、検出処理し、ARTS又はTRADへ供給する」という用語説明があります。これだと、ASRとSSRを併せて「TSR」というように読み取れます。その一方でパワーポイントの資料には、SSRとは別に「ASR/TSR:2700MHz~2900MHz」と書いてあったり、「空港監視レーダー(ASR/SSR, TSR)」という記述もあったりして、航空局もはっきり書き分けていないように思えます。
      2016年のICAO略語表に「PSR」や「SSR」は載っていますが、「TSR」は載っていませんでした。もっとも「ASR」や「ARSR」、「ASDE」も載っていないので、国際的に定義された用語ではなさそうです。
      私が疑問に思っていたことをご指摘いただき、ありがとうございます。

  2. アバター 通りすがり より:

    通りすがりの者に、大変丁寧なお返事いただきありがとうございます。
    TSR-17 ですか…きっと数字にも何か意味があるのでしょうね。
    今後も航空技術系の情報楽しみにしております。