誤進入を防ぐ

滑走路が2本になったばかりの那覇空港で「誤進入」事案が発生しました。737型機が着陸許可を受けて最終進入中に、F-15戦闘機2機が誤って滑走路に入ったようです。(写真は千歳基地のF-15J、2018年7月22日、やぶ悟空撮影)

飛行航跡

2020年4月17日、午前11時過ぎのこと。新しい滑走路(第2滑走路)18Rに向けて着陸態勢に入ったのは、鹿児島から那覇に向かっていたソラシドエア83便のボーイング737-800型機(JA810X)です。Flightradar24では「SNJ83」と表示されています。その飛行航跡は、いったん着陸を取りやめて復行し、ひと回りしておよそ15分後に着陸していました。

▲ 着陸をやり直すSNJ83Flightradar24を再配置し加筆。時刻はUTC)

Flightradar24で当時の飛行航跡を再生すると、SNJ83が最低速度124ノット、最低高度575フィートまで降下していました(図の左下)。一方、FlightawareのADS-Bデータを見ると、111052秒の123ノット/650フィートが進入の最低速度/最低高度でした。元になるADS-Bデータは同じなのに、高度が少し違ってるなぁ。

SNJ83の飛行航跡(eAIPおよびFlightradar24

SNJ83ILS RWY 18R進入だったようです。EISAR経由でSALSAへ、高度1200フィートで水平飛行し(第2滑走路オープン前は水平飛行高度が1000フィートでした)、滑走路18R進入端から3.6nmPARTYから ILSのコースとパスに乗って進入します。

この進入で最低高度になったのは、Flightawareの緯度・経度記録から、滑走路18R進入端から2.3nm付近だったことが分かりました。SNJ83はここから上昇してMissed Approach procedureを採ったようです。

2本の滑走路

管制官から待機の指示を受けていたにもかかわらず新しい滑走路18Rに誤って進入したのは、航空自衛隊のF-15戦闘機2機です。これらの自衛隊機は、もちろん ADS-Bで自機の情報をたれ流すようなことはありませんから、Flightradar24でも Flightawareでも地上走行航跡などを確認することはできません。数少ない報道内容の外に、この時のF-15に関する状況を知ることはできませんでした。

那覇空港では3月26日に第2滑走路が供用開始されたばかりですから、2本の滑走路があれば離陸用と着陸用に分けて運用しそうなものです。通常はターミナルに近い滑走路を離陸に、遠い方を着陸に使うでしょう。離陸する2機のF-15が なぜ遠い滑走路18Rに向かったのかと思ったら、実はこのとき、第1滑走路18L/36R閉鎖されていたのです。

この日(17日)の午前2時ごろ、第1滑走路に近い空港内の工事現場で不発弾が見つかったそうです。そのため第1滑走路を閉鎖して、新しい第2滑走路のみで運用していたとのこと。新型コロナウィルス感染拡大の影響で離着陸が大幅に減少している折りですから、滑走路1本運用でも支障はないのでしょう。

事故やインシデントが起きるときってこんなもので、安全性には何の問題もないけれど、少しだけ「いつもと違う状況」だったりすることが多々あるのです。

重大インシデント?

那覇空港では、2018年6月にも似たような事案が発生していました。DHC-8-402Q400)が着陸許可を受けて滑走路36へ最終進入中、2機のF-15が管制許可を得ないまま滑走路36に進入した、というものです。当時は滑走路が1本で南からの進入だったことと夜間だったことは今回と違いますが、状況は ほぼ同じように思えます。管制官がF-15を滑走路から離脱させた後、Q400は復行することなく着陸しました。

この事案は航空重大インシデントとして運輸安全委員会が調査しました。その報告書によれば、F-15が滑走路に入ったときの進入機の距離が約3.4nm、滑走路から離脱したときの最接近距離が約1.3nmだったそうです。F-15は緊急発進(スクランブル)でタイムプレッシャーの下、「管制指示を思い違いした」とされています。空自は再発防止策を講じましたが、2年後に同様事案が起きたということは、それらの防止策が十分に生かされなかったのか?

再び起きた今回の事案を受けて、空自那覇基地はF-15戦闘機の通常訓練を中止してパイロットの再教育を行っており、基地司令は「今回の事案は重大な事故に直結する可能性があり、誠に遺憾です。今後の飛行の安全を確保するため、原因の究明と再発の防止に万全を期します」とコメントしたそうです。(NHK 2020年4月17日 18:59)

その一方で、「国土交通省によると、重大インシデントには該当しないとみられるという」(琉球新報 2020年4月17日 19:01)と報道されています。今回の事案は「航空重大インシデント」として調査しないの? 2018年6月の事案は(航空法施行規則 第166条の4 第2号中の「他の航空機が使用中の滑走路への着陸の試み」に該当するとして)航空重大インシデントとして取り扱われました。航空局が今回は該当しないと判断するのなら、どう異なる状況だったのか、その根拠を明らかにしてほしいものです。

運輸安全委員会のwebサイトから、過去10年以内に那覇空港で発生した似たような事案を検索してみました。(新しい順)

このように7年間で5件の航空重大インシデントがヒットしました。民間機の3事案はいずれも海外機が、他の2事案は自衛隊機がトリガーになっています。那覇空港だけでこの発生件数ですから明らかに多いといえます。

那覇空港は、トラフィックが多いうえ機種が多様で速度の差が大きく、また米軍基地に隣接する空域の特殊性などから、航空管制の難しさが知られています。ほかにも、パイロットや管制官に聞き間違いや思い違いなどが生じやすい、何か心理的な誘因などが潜んでいるのかもしれません。

対策は、ある!

今回のように誤って滑走路に入ってしまう「誤進入」、あるいは誤って離陸する「誤出発」などを防ぐしくみが、実は既にあるのです。RWSL(Runway Status Lights)といわれる「滑走路状態表示灯火システム」です。

滑走路や誘導路に設置する警告灯により、パイロットに対して交通信号機のように「止まれ」を伝えるものです。RWSLは2種類の灯火、「REL」と「THL」があります。

▲ 航空機接近警告灯(航空局資料を編集、加筆)

赤く点灯しているのが REL(Runway Entrance Lights、航空機接近警告灯)です。写真は大阪国際空港の滑走路14Lへの入口付近で、停止線の手前で「止まれ」という意味です。着陸しようとしている航空機がいると自動的に点灯し、滑走路への誤進入を防止することができます。

▲ 離陸待機警告灯(航空局資料を編集、加筆)

写真は、福岡空港滑走路16の離陸滑走開始位置です。中央にまっすぐ延びた滑走路中心線灯の両脇に、赤く点灯した THL(Takeoff Hold Lights、離陸待機警告灯)が見えます。前方に他の航空機を検出すると点灯して「止まれ」の合図で誤出発を防ぎます。

これらの点灯/消灯に管制官の操作は不要で、自動的に制御されます。その原理は、「レーダーシステムが航空機の位置、速度から滑走路の占有状態をリアルタイムで判定して、RELTHLの点消灯を決定する。その結果がRWSLシステムに伝送され、REL 及び THLを全自動で点灯/消灯を制御する。」(航空灯火システムの現状と動向、電気設備学会誌 2017年2月)というものです。ASR/SSRASDEなど複数のレーダーに加え、マルチラテレーション(MLAT)システムからの情報を取り込んで判定しています。

  • ASDE : Airport Surface Detection Equipment、空港面監視レーダー
  • ASR : Airport Surveillance Radar、空港監視レーダー
  • MLAT : Multi-lateration、マルチラテレーション
  • SSR : Secondary Surveillance Radar、二次監視レーダー

那覇空港では、滑走路増設事業に併せてRWSLが整備されました。ただ、第2滑走路がオープンして間もないため、新設ASDEとともに RWSLはまだ調整・評価中なのかもしれません。正式に運用開始してはいなかったのかな?

2012年に那覇空港で発生した誤進入の調査報告書に、再発防止のため RWSLを整備することが記されていました。その報告書の公表から5年、RWSL整備がようやく実現するまでに5件以上の誤進入事案が発生したのです。幸い生命に係わる状況にはなりませんでしたが、パイロットや管制官に「気を付けましょう」と注意喚起するだけでなく、安全性の向上が期待できる技術があるなら、厳しい予算の制約の中でも速やかに実行に移す姿勢や工夫が、より一層必要なのではないでしょうか。