風も見えるレーダー

新千歳空港で気象レーダーの更新作業が行われているという情報をいただき、様子を見に足を運んでみました。(写真は旧レドーム、2020年3月)

空港気象ドップラーレーダー

新千歳空港の気象レーダーは「空港気象ドップラーレーダー」といい、Doppler Radar for Airport Weather の頭文字から「DRAW」と略すようです。飛行場周辺の雨や雪だけでなく、電波のドップラー効果を利用して風向や風速の急変(ウィンドシアー)を捉えることができます(雨粒がまったくない晴天時は無理ですが…)。

2020年3月時点で、国内の主要9空港にDRAWが設置されています(新千歳、成田、東京、中部、関西、大阪、福岡、鹿児島、那覇)。

新千歳DRAW

新千歳DRAWの位置は 北緯42°47′46″/東経141°40′36″で、地上高が40.1メートル(アンテナの海抜高度:60.7m)と気象庁webサイトに載っています。巨大なサイロのようにも見えます。

契約情報

レーダーなど電子機器には寿命があります。新千歳DRAWも設計寿命(おそらく15年程度)に近づいたのでしょう。昨年(2019年)3月には、「空港気象ドップラーレーダー製作及び取付調整(新千歳空港)」という契約件名で入札公告が出ていました。

4月下旬に開札され、日本無線(株)関東支社が約6億円で落札したことが公表されています(令和元年6月3日官報、597,240,000円、最低価格落札方式)。近年のDRAWの更新に当たっては、すべて日本無線(株)が落札しています。東芝はどうしたのでしょう。

  • 2016年3月更新、関西国際空港、東京国際空港
  • 2016年12月更新、成田国際空港
  • 2018年更新、那覇空港
  • 2020年3月更新、中部国際空港、福岡空港
  • 2020年12月更新、新千歳空港
  • 2022年3月更新予定(契約済)、大阪国際空港

新型DRAWには二重偏波機能が追加され、偏波データの利用によりデータの品質が向上する、とされています(日本無線技報 No.69 2018-50)。気象庁の「契約の概要調書」によると、新千歳DRAWの履行期限は、

  • 本体部と処理部の製作:2020年の3月下旬
  • アンテナ系、信号処理装置、データ評価装置の製作:2020年8月末
  • 取付調整:2020年12月下旬

となっています。このとおり進んだとすれば機器の製作はすべて完了し、残るは取付調整だけのはずです。

▲ 現場の表示板と 取り下ろされた機材

この写真に記された「10月29日まで」に、取付調整のすべてが完了すると見て良いのでしょうね。新型コロナウィルスは、この工期には影響を及ぼさなかったのかもしれません。

更新工事

9月中旬に新千歳空港を訪れたとき、新しいレドーム(レーダーアンテナの覆い)が地上に置かれていました。レドームやアンテナを取り換えるクレーン作業の日に来れば、中のアンテナを直に見ることができると期待していたのですが、4連休中の晴れの日に終わらせてしまったようで、残念ながら望みはかないませんでした。このようなアンテナが顔を出したはずです。

DRAWアンテナ(那覇航空測候所のwebサイトより)

那覇空港のこのパラボラアンテナは、2003年6月に納入された東芝製とのこと。直径が7メートル、ビーム幅が0.7°というのは日本無線製の新型DRAWでも同じです。

ついでに技術情報をもう少し。これまでの新千歳DRAWの送信部には「クライストロン」という電子管が使われ送信出力200kWですが、更新される新たなレーダーの送信モジュールは半導体素子の「GaN HEMT」となり、送信出力は5kWとされています。クライストロン(Klystron)はマイクロ波用真空管で、定期交換が必要な1本300万円ほどもする高価な部品です。送信部の固体化は省エネ&コストダウンに寄与することでしょう。

  • GaN HEMT : Gallium Nitride High Electron Mobility Transister、窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ

話を戻しましょう。私が次に訪れたときには新しいレドームがすでに取り付けられ(たぶん、アンテナも新しいものに交換され)ており、古いレドームが地上に下ろされていました。

新千歳DRAW更新工事、地上の球体が古いレドーム

建物2階の扉から、新型DRAWの機器らしきものが次々と運び込まれていました。

▲ 機器の搬入作業

レーダー局舎の入口脇には、取り外された機材が置いてありました。これは旧アンテナの基部(架台)のようです。

▲ アンテナの架台(方位部)

これはアンテナの方位リングっぽいですね。

▲ アンテナの架台(チルト部)

アンテナの仰角を変えるチルト機構のようです。この上にパラボラアンテナが取り付けられていたはずです。

▲ アンテナにつながる導波管

方形導波管(左上)が見えます。新千歳DRAWの周波数は 5280.0 MHzだそうで、この導波管を経由して送信波がアンテナに送られていたと思います。

▲ 円形の電磁ホーン

金網越しですが、左下は取り外された放射器です。パラボラ反射鏡の焦点に置かれ、電波を発射したり受けたりする部分です。右上は導波管接続部。

レドーム

▲ 新レドームの頂部

固定の都合上わずかに傾いた避雷針と、着雪を落とすためのロープとそれを通した滑車が見えています。

▲ レドームの継ぎ目

レドームパネルの継ぎ目、ほぼ同じ場所の新旧比較です。ボルトの数が増えているようで、風に対する強度が上がったのかな?

▲ 残骸

10月になって訪れると、分解された古いレドームのパネルが積み重ねられていました。奥の方にはパラボラアンテナをバラした反射鏡らしきものも…。

▲ 新千歳空港のスマートな気象レーダー、DRAW

航空機の安全運航に活用される「空港気象ドップラーレーダー」、どんなに技術が進歩しても、航空人は気象、特に風に関しては常に謙虚でなければなりませんね。

※ 特記のない写真は、2020年3月・9月・10月、やぶ悟空撮影

関連記事