巨大ファンブレードが損傷!

エンジンのファンブレードが無くなっています。2020年12月4日、那覇空港を離陸したボーイング777-200の左エンジンに不具合が発生して引き返しました。冒頭の写真は 琉球新報DIGITAL(2020年12月6日06:30)より。

ニュースを聞いて最初に考えたのは、高度は十分だったのだろうか?という心配でした。離陸直後の低高度で片側エンジンの推力を失うことは、ベテランパイロットであっても避けたいはずです。特に那覇空港では、北からの進入時だけでなく離陸時にも高度制限があるため、なおさらかもしれません。

▲ やぶ悟空の推定飛行経路

多くの感情的な報道がある中、私が知りたい情報が含まれていて信頼できそうな数値を出している Aviation Wireから引用しました。飛行航跡図は機内で撮影された写真から私が作図したので、精度の高いものではありません。

エンジン

FlyTeamによれば、この機体JA8978はプラットアンドホイットニーPW4074エンジンを搭載しているとのこと。

▲ PW4074/4077エンジン

「航空エンジンの整備に関する現状と動向」Figure 1-6に図が載っていましたので、それをベースに利用させていただき、着色・加筆しました。

航空エンジンが壊れるとき、高圧タービン(HPT)のブレード損傷が原因になることが多いという印象を持っています。燃焼室(Combustion Chamber)から出たばかりの高温高圧ガスがタービンを高速回転させる部分ですから、ブレードにとっては非常に環境が厳しいのです。

しかし今回は、冒頭の写真からも分かるとおり、いちばん前のファンブレードが損傷しています。1枚は根元付近から折れ、その隣りの1枚も先端部が無くなっているように見受けられます。他のファンブレードも6枚以上の前縁に損傷が見えています。

PW4000シリーズ112エンジン(Pratt and Whitney)

PW7074エンジンは、PW4000シリーズの112エンジンです。ファンの直径が112インチ(約2.85メートル)という巨大サイズです。

ファンブレードが損傷する原因の多くはバードストライク(鳥衝突)ですが、その痕跡はなかったようです。小さな鳥が当たったぐらいでファンブレードは折れないし、大型の鳥を吸い込むとこの程度の損傷では済みません。大小にかかわらず、鳥の羽毛や肉片が付近にこびりつきますから…。

外的要因でないとすると、ブレード本体に問題があった可能性が高そうです。冒頭の写真では、ファンブレードの1枚が図の赤線部分で折れているように見えます。この1枚が折れたときに隣りのブレードに当たって破壊し、吹き飛んだ破片がほかのファンブレードの前縁を損傷させた、といったところでしょうか。

損傷したエンジンの破片は後方に拡がりながら飛散しますから、左の水平尾翼や胴体左側に傷があっても何ら不思議ではありません。場合によっては垂直尾翼にも傷がつくことがあります。

那覇空港に引き返すとき、エンジンカウルの一部が開いた状態で撮影されていました。エンジンカウルの留め具が振動などにより(あるいは破片が当たって)外れ、カウルの一部が風圧で引きちぎられたのではないかと想像しています。おそらく大小さまざまな破片が落下したでしょうから、住宅密集地の上空でなくて良かったといえるかもしれません。海上でも船舶に影響がなかったのならいいのですが…。

ETOPS対応でエンジンの信頼性が大きく向上したとはいえ、壊れる可能性は必ず残っています。乗客として飛行機に乗って離陸滑走が始まると、数秒ごとに今このタイミングでエンジンが壊れたら…と私はいつも考えます。もちろん自分で対処することはできませんが、緊急着陸と非常脱出の準備をすぐに始められるような心構えを持つのです。靴を脱いでくつろぐのは速度に余裕ができ、十分に高度を確保してからにしています。

こんなことを他人に話したことはないのですが、あるとき、まったく同じことを話している人が身近にいて驚いたことがあります。彼は若いながらもとても腕のいい、飛ぶことが大好きな事業用操縦士なのです。離着陸時には靴を脱がないという人を見付けて、とてもうれしくなったハナシでした。


(2020.12.30追記)

12月28日、運輸安全委員会は、調査の過程で判明した事実を航空局あて情報提供しました。知り得た重要な事実情報を調査終了まで公表せずにいると、世界中で使われている航空機で同様の事象が発生し重大な状況が生じかねない場合などに行われる措置です。

それによると、やはりファンブレードが損傷していました。

16番ファンブレードの疲労破壊が原因だったようです。

今後は、金属疲労の進行に気付くのが遅れた理由を中心に調査することになるのでしょう。


2021年2月20日(現地)、PW4000シリーズエンジンで類似したファンブレード損傷事案が発生しました。こちらの記事「また、ファンブレードが破断!」をご覧ください。

コメント

  1. AMIGO より:

    そうですね。高速、高圧、高温の環境で回転する高圧タービンブレードではないファンブレドの破損はあまり聞かないですね。破損個所が取付け部ではなくちょっと離れた根本部から破損してますね。どのような原因があったのか知りたいですね。

    • やぶ悟空 より:

      何かのきっかけで傷付いた部分から金属疲労が徐々に広がった結果、このような破断にまで至ったような気がしますが、その間の点検で気付くことができなかったとしたら残念です。コメントありがとうございます。