データ中継衛星が上がって…

2020年11月29日、内閣衛星情報センターのデータ中継衛星1号機が H-IIAロケットで打ち上げられました。苫小牧地球局の様子はどうなっているのかな?(写真は2020年12月の北受信管制局、大口径カセグレンアンテナ)

▲ 内閣衛星情報センター北受信管制局(苫小牧市、2020年12月)

メロン色の球体2個には、情報収集衛星の撮像データを受信するためのアンテナが入っています。左のメロンの隣にあるのが静止衛星と通信するための地球局アンテナ(冒頭の写真)で、このアンテナでデータ中継衛星と通信します。そして、左右の2本の鉄塔はアンテナのコリメーションタワーです。いずれも筆者(やぶ悟空)の勝手な推測ですが、おそらく間違いないでしょう。

▲ 北受信管制局の静止衛星通信用アンテナ(2020年12月)

H-IIAロケット43号機の打上げを実施した三菱重工の「重要なお知らせ」(2020-11-29)によると、搭載した衛星は「データ中継衛星1号機・光データ中継衛星」となっています。この長い名前はいったい何だろう?

宇宙基本計画工程表(2020年6月29日)によれば、「データ中継衛星1号機」と「光データ中継衛星」は「共通バス」と書かれています。単純に言えば、衛星本体の箱(バス)は共通ですが、2種類の機能(ミッション)を持つ衛星ということです。すでに運用を終了した運輸多目的衛星(MTSAT)も、航空と気象の2つのミッションを持つ衛星でした。

今回打ち上げられた衛星の2種類のミッションというのが、「データ中継」と「光データ中継」、同じじゃないの?と思ってしまいますが、これらは別のミッションのようです。

電波でデータ中継の通信を行う機能は「データ中継衛星1号機」と名付けられ、内閣衛星情報センターが情報収集衛星とともに運用します。光通信でデータ中継を行う機能は「光データ中継衛星」と呼ばれ、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が技術や運用の実証を行うようです。

「データ中継衛星」って、どういうもの?

▲ データ中継衛星の概念図(JAXA資料より抜粋)

図の左に描かれている人工衛星は、高度約35,800kmの静止軌道上に投入された一般的なデータ中継衛星を表しています。地球観測衛星は高度数百キロメートルの低軌道を周回しているので、この図では地球の周りを縦に回る軌道が描かれています。内閣衛星情報センターが運用する情報収集衛星(光学衛星およびレーダ衛星)も地球観測衛星の一種です。Wikipediaによれば、高度は約490kmと言われているので実際にはこの図の軌道よりもっと低く、地表面すれすれを回っているのでしょう。

この概念図では、地球観測衛星から直接JAXAの勝浦局にデータを送ることができる範囲が黄色で示されています。通信が可能な時間は10分間ほどしかありません。情報収集衛星の撮像データを日本にダウンリンクするときは、北受信管制局(北海道苫小牧市)と南受信管制局(鹿児島件阿久根市)の南北に離れた2局を使っても通信時間はせいぜい十数分ほどでしょう。衛星が日本の上空を通らない時間帯も長いので、衛星が撮像した大容量データを地上に送るには厳しいものがあります。

そこへ登場させるのが、このたび打ち上げたデータ中継衛星1号機です。この衛星は静止軌道に投入されるので、地上から見上げると衛星が常時同じ位置に静止しているように見えます。その静止衛星にデータを中継させるのです。つまり、情報収集衛星からいったんデータ中継衛星にデータを送り、データ中継衛星を介して地上に送るという流れです。

▲ データ中継(JAXAの図を加工)

赤道上空の静止軌道に投入されるデータ中継衛星の可視範囲は広く、地球表面のほぼ3分の1をカバーします。この衛星が中継することにより情報収集衛星と地上局との通信時間は大幅に拡大し、1回あたり約40分(1日最大9時間ほど)になるとのこと。撮像データを地上に送ることだけでなく、地上から衛星にコマンド(指令)を出すこともリアルタイムで可能になる時間帯が増えることになります。

この図の衛星間通信の部分を、電波ではなく光通信に置き換えると「光データ中継」になります。光データ中継衛星には光衛星間通信システム(LUCAS)という通信装置が搭載されていて、JAXAが技術や運用の実証を行います。電波(マイクロ波)による通信に比べ、レーザー光を使った光通信では圧倒的な高速大容量伝送が可能になるそうです。(NECプレスリリース「NEC、JAXA光衛星間通信システム「LUCAS」向け衛星用光通信装置を開発」、2020年12月10日)

▲ 北受信管制局(Googleマップ)

苫小牧市にある内閣衛星情報センター北受信管制局は、Googleマップの写真では「政府機関」と書かれています。中央付近のアンテナをもう少し拡大したのが次の写真です。

▲ 北受信管制局の静止衛星通信アンテナ(Googleマップ)

これがデータ中継衛星1号機と通信するための大きなアンテナです。

▲ 北受信管制局(2020年7月)

苫小牧にある地上局周辺にはエゾシカがやってきます。この写真には5頭のシカが写っていることにお気づきでしょうか。

いま軌道上にある情報収集衛星は、光学衛星が3機(5、6、7号機)とレーダ衛星が5機(3、4、5、6号機と予備機)で、設計寿命を超えている衛星も複数あります。それらに加え、このたびデータ中継衛星1号機が打ち上げられ、もう静止軌道に入っているころだろうと思います。いましばらく軌道上で調整が行われた後、データ中継ミッションの運用が始まることでしょう。

今のところ、データ中継衛星1号機との通信機能を持っている情報収集衛星は、2020年2月に打ち上げられた光学7号機だけだろうと思います。今後、「基幹衛星」の後継機として打ち上げられる光学/レーダ衛星や、新軌道に投入される「時間軸多様化衛星」と言われる光学/レーダ衛星には、データ中継が可能な通信機器などが搭載されるに違いありません。

2027年度にはデータ中継衛星2号機の打ち上げが計画に組み込まれています(宇宙基本計画工程表)。「基幹衛星」4機に、「時間軸多様化衛星」4機および「データ中継衛星」2機を加えた計10機体制を目標として整備が進められています。いずれかのタイミングで、情報収集衛星においてもレーザーによる光データ中継が実運用化されることになるのでしょう。

▲ 北受信管制局のエゾシカ(2020年9月)

アンテナの向きが変わっていることはありますが、データ中継衛星1号機が上がった後も、外から見る限りではいつもとあまり変わらない苫小牧の地球局でした。

▲ 北受信管制局(2020年12月)

※ 特記のない写真はすべて、やぶ悟空撮影

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