チン川と 鵡川VOR/DME

珍川」とは…。愛すべきおバカ男子たちが大喜びしそうな名付けです。鵡川(むかわ)に流れ込む支流の中で河口にいちばん近く、鵡川VOR/DMEサイトのすぐそばを流れる川の名前です。

▲ 鵡川VOR/DMEそばに立つ遺跡名

道端の雑草が枯れて見通しが良くなると、鵡川VOR/DMEの傍にこんなものが立っていることに気付きました。「J・14・33 チン川左岸3遺跡」とあります。

▲ 鵡川VOR/DMEサイトと珍川(Googleマップ)

川といっても小さな流れなのでGoogleの写真では川面が見えません。VOR/DMEサイトは珍川の左岸(下流に向かって左側)にあります。チン川左岸3遺跡は、鵡川VOR/DME施設の設置工事を契機として1987(昭和62)年に見つかった埋蔵文化財包蔵地です。鵡川VOR/DMEの供用開始が1988(昭和63)年7月20日と告示されています。むかわ町教育委員会によれば発掘調査報告書などの刊行物はないらしく、どのような遺物が出たのかは分かりません。

▲ 鵡川VOR/DMEの位置(Googleマップに加筆)

珍川を上流にさかのぼると、自動車のテストコースに入っていきます。Googleマップを拡大すると、その辺りに沼らしきものが見えます。源でしょうか。このテストコース、以前はワーカム北海道という社名でした。「ムカワ」を逆から読んだ名付けだったようですが浸透せず、ことし4月1日、いすゞ北海道試験場に社名変更しました。

珍川が流れるむかわ町汐見付近には、川沿いの約3kmにわたって南側隆起の活断層の存在が推定されています。(国土地理院 活断層図より、2020年11月現在)

▲ 国道235号付近の珍川

地理院地図では漢字の「珍川」ですが、橋によっては「チン川」とカタカナの表記もありました。こんな流れです。

▲ 鵡川VOR/DMEサイト遠望(南西から)

手前の畑の中を右から左に流れるのはライバチン川で、VOR/DMEサイトの向こう側に珍川が流れています。その川の少し下流にはアイヌのチン・コタンがあったそうです。コタンとは集落・部落のこと。古い地図を見てみましょう。

▲ チン川(国土地理院の古地図コレクションより、地図に加筆)

原図が伊能忠敬という、蝦夷の地図です。図の右下に「チン」とあり、「ムカワ川」(現在の鵡川)の支流であることが描かれています。

アイヌ語で「チン」とは、鹿や熊など獣の皮を乾すために皮を張る、という意味なのだそうです。コタンにはその作業が上手な人々が多かったので「チンコタン」の名がついた、という記述を見付けました。チン川の名前もそこから来たのでしょう。

▲ 現在の地図と遺跡の位置(地理院地図に加筆)

この図は、むかわ町が実施した発掘調査報告書などの情報を基に地図に落したものなので、遺跡の位置は精度が高くはありません。それにしても、VOR/DMEサイト周辺にずいぶん多くの遺跡があるんですね。チン川左岸の遺跡は縄文時代前期のものとされています。

▲ 鵡川VOR/DMEのアンテナ

VOR/DMEという航空保安無線施設は、ここ10年でかなりの数が廃止されました。航空局は、最低限必要なVORは更新・改良を行いながら残しつつ、「縮退」可能なVORについては縮減を進めてきました。行政事業レビューシートによれば、2020年度までに実施する計画になっています(平成22年度時点で53のVOR施設を、平成32年度までに33施設縮減、とある)

2020年12月のAIPで数えたところ、VOR75局(うち北海道には13局)ありました。その中で、Lower ATS Routesを構成しているのが61局、RNAV経路に組み込まれているのが48局かと思います(数え間違いがなければ…)。鵡川VOR/DMEは、Y101Y14というRNAV経路を構成する要素になっているので廃止は考えていないのでしょうが、技術の進歩とコスト低減がさらに進んで新ナビ対応アビオニクスが普及すると、いずれ「遺跡・遺物」扱いになってしまうのかもしれませんね。

  • AIP : Aeronautical Information Publication、航空路誌
  • ATS : Air Traffic Services、航空交通業務
  • DME : Distance Measuring Equipment、距離測定装置
  • GNSS : Global Navigation Satellite System、全地球的航法衛星システム
  • RNAV : Area Navigation、広域航法
  • VOR : VHF Omnidirectional Radio Range、超短波全方向式無線標識施設

※ 特記のない写真はすべて、2020年11~12月、やぶ悟空撮影

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