また、ファンブレードが破断!

トリプルセブンのエンジンが、また壊れました。派手に吹っ飛んだむき出しの姿と炎がインパクトのある映像として広く報道されました。

2021年2月

20日(現地)、米国コロラド州のデンバー国際空港を出発したボーイング777-200型機(N772UA)は、離陸から数分後に右側エンジンが損傷しましたが、同空港に引き返して無事着陸しました。

▲ 落下したインレット・カウル(Broomfield Police のTwitterより)

壊れたエンジンの先端、空気取り入れ口のリップ部分がきれいにちぎれたようです。他のエンジンカウルも地上に落下しましたが、けが人が出なくて幸いでした。

▲ N772UAの損傷した右エンジン(NTSBの写真より)

すでにファン部分が取り外された状態の写真ですね。NTSB(国家運輸安全委員会、米国の事故調)はファンブレードの1枚が根元付近から、その隣りの1枚は中ほどから破断していたと発表しました。

▲ N772UAのファンブレード損傷(左はwebから、右はNTSBの写真)

確かに1枚が根本から無くなっていて、もう1枚は先端部の3~4割ほどが折れて失われています。NTSBは「初期評価では金属疲労の特徴と合致する」という見解を示したようです。(ロイター

このエンジンは、プラット・アンド・ホイットニーPW4000シリーズのPW4077型です。

2020年12月の事案

同じPW4000シリーズのエンジンが損傷した重大インシデントが、2か月半前に日本で発生していました。

那覇空港から離陸したボーイング777-200JA8978)の左エンジンが壊れたのは、2020年12月4日のことでした。詳しくはこちらの記事をご覧ください。インレット・カウルは分離しませんでしたが、エンジン・カウルの一部は失われていました。

この機のエンジンは、プラット・アンド・ホイットニーPW4074型です。2021年2月事案のPW4077と同じPW4000シリーズの112エンジンです(ファンの直径が112インチ)。

▲ JA8978のファンブレード損傷(2020年12月28日付プレスリリース、運輸安全委員会)

この事案は、運輸安全委員会(JTSB、日本の事故調)が現在調査中ですが、ファンブレードの損傷状況が公表されています。16番ブレードが根元付近から、隣の15番ブレードが中ほどから破損しており、16番ブレードの破面には疲労破壊の特徴が認められたとJTSBが発表しました。

▲ 2020年12月、那覇で発生したJA8978のPW4074エンジン損傷

2018年2月の事案

実は、それ以前の2018年にもPW4000シリーズのファンブレード損傷事案が発生していました。PW4077型エンジンを装備したボーイング777-200N773UA)が、高度約36,000フィートを巡航中に右エンジンが損傷し、ホノルルに緊急着陸したのです。2018年2月13日(現地)のことでした。

▲ N773UAのファンブレード損傷(2018年10月29日、NTSB Factual Report)(赤文字は筆者加筆)

やはりファンブレード1枚(No.11)が損傷し、隣のブレード(No.10)の中ほどから先の部分が失われています。そして、2021年2月の事案と同じように、インレット・カウルとファン・カウルがエンジンから分離していました。

2021年2月、2020年12月、そして2018年2月のいずれの事案も、ファンブレードの損傷状況が非常に似かよっています。すべて同じPW4000シリーズの112インチ・ファンブレードのエンジン(PW4074/4077)です。22枚のファンブレードのうちの1枚が付け根付近から破断し、離れたブレードが回転方向後ろ隣りのファンブレードの中ほどに衝突して損傷を与え破断させた、というシナリオに間違いなさそうです。

2018年2月の事案については、NTSBが Factual Report を出しています。その図や写真をいくつか拾ってみました。(Powerplants Group Chairman’s Factual Report=NTSB、Metallurgical Investigation Final Report=P&W、および Overview of Failure Sequences and Root Cause Statements より)

▲ 前から見たPW4077エンジン

このエンジンのいちばん前段にあるファンは、前から見て左回転します。矢印付近でブレードの先端がファンケースに当たり、矢印のようにブレードの破片が約170°内側を切り進んだ…という解析シミュレーションが示されています。

PW4077エンジンのインレット部

このように、一瞬のうちに下半分を切り裂いてしまったようです。

▲ 最初に破断したファンブレード11番(赤文字は筆者加筆)

写真の下部でブレードが固定されます。そのすぐ上の付近から破断していました。

▲ 二次的に破断したファンブレード10番(赤文字は筆者加筆)

最初に破断した11番ブレードが遠心力で外側に飛んで、後ろから回転してきた隣の10番ブレード凹面の中ほどに当たった跡がはっきりと残っています。ネットにあるエンジンテストの動画でも、そんな一瞬をスローで見ることができます。それで3つのエンジン損傷事案のファンブレードが同じような壊れ方をしているんですね。

▲ ファンブレード11番の破断面、根元側(赤文字は筆者加筆)

このファンブレードは中空になっており、その内側に疲労破壊の起点が見つかりました。

疲労破壊の起点

2020年12月と 2018年2月の事案の破断面を比較すると、まったく同一の部位が疲労破壊の起点になっていることに気付きました。

▲ ブレードの破断面(2020年12月28日、運輸安全委員会)

中空ファンブレードのキャビティfFA)の凸側、リブの角です。発生したばかりの2021年2月の事案はまだ破断面の解析結果が公表されていませんが、もしや同じ場所なのでは?

▲ N772UAのファンブレード破断部(NTSBの写真)

NTSBが公開している写真を拡大して見てみましたが、この解像度では破断の起点が良く分かりません。さらなる情報を待ちましょう。

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航空局は、この2月に米国で発生したエンジン損傷事案を受け、同じエンジンを搭載する777の運航停止を指示しました。日本航空が13機、全日空は19機が対象となるそうです。コロナ禍で大幅に減便されている状況ですから、通常時に比べれば影響はさほど大きくないのかもしれません。こんな場合のリスクも考慮した上で、同じ会社の777でも他のエンジン(GE90)を装備した機体もあるのです。

▲ ANAのボーイング777-200ER、PW4074エンジン

全日空のTOKYO 2020特別塗装機であるJA745Aのエンジンの側面には、米国の象徴ともいえる白頭鷲の絵とともに「PRATT & WHITNEY DEPENDABLE ENGINES」と描かれています。そのとおり dependable(信頼できる、頼もしい)エンジンなのでしょうし、片側エンジンが停止しても直ちに飛行に影響が出ることはない双発機なのですが、112インチ・ファンブレードの破断が3年間で3件も発生するようでは、航空行政当局として「運航停止」という非常に強い措置をとることはやむを得ないでしょう。

▲ JALのボーイング777-200、PW4074エンジン(2021年2月、やぶ悟空撮影)

破断面の解析が進められ、ファンブレードの点検周期や点検方法の見直しなど具体的な対策が示されて、PW4000-112エンジンを搭載したトリプルセブンがまた大空に舞う日を心待ちにしています。

ちなみに、政府専用機の777-300ERはGE製のGE90-115BLエンジンなので、影響はありません。

コメント

  1. AMIGO より:

    いや~今回の事故はおどろきましたね。乗客は生きた心地しなかったてしょう。
    疲労破壊の起点に興味あります。いつも、高圧圧縮ブレードではなく、ファンブレード
    が破壊されるのが不思議です。

    • やぶ悟空 より:

      2018年2月のUAL事案と2020年12月のJAL事案の疲労破壊起点が同じ場所だったということは、ファンブレードに何か共通の問題があるような気がしています。使用した時間やサイクルを重ねてから現れる問題だとすると、なかなか厄介かも。
      タービンやコンプレッサーのような小さなブレードの破断ならエンジン内部の損傷で済むことが多いですが、こんな巨大なファンブレードが折れると壊れ方が尋常じゃないですね。壊れたファンケースが客室と乗客の命を守ってくれたということなのでしょう。