3月5日(ワシントン)、NTSB(米国の国家運輸安全委員会)はボーイング777エンジン損傷の調査情報をアップデートしました。2021年2月20日(現地)、デンバー国際空港を離陸後にP&W(プラット・アンド・ホイットニー)PW4077エンジンが破損した事案です。
(冒頭の写真は PW4074Dエンジンの777-200ER、JA745A。2020年12月、やぶ悟空撮影)
発生の状況
NTSBのこれまでの調査によれば、おおむね次のとおりです。
離陸からおよそ4分後、速度約280ノットでFL230に上昇中の高度12,500フィート付近で、パイロットがタービュランスの通過時間を短かくしようとパワーを加えたところ、大きな音がしてエンジンが停止し、すぐにエンジン火災警報が出ました。パイロットは管制官に緊急事態の発生と空港に引き返して緊急着陸する旨を伝えました。エンジン火災の消火装置を作動させましたが、火災警報はすぐには消えませんでした。燃料投棄を行わないことにしたのは、時間がかかることと、着陸時のオーバーウエイトの程度が大きくないことを考慮したからです。そして、片エンジン飛行でデンバー国際空港の滑走路26に無事着陸しました。
エンジン調査
損傷した右エンジンの調査では、すべてのファンブレードが取り外されました。NTSB専門家の立ち合いの下、P&Wのラボで解析中です。初期の電子顕微鏡検査で、ファンブレード内部のキャビティ(空洞)の内側表面に疲労破壊の起点が複数見つかりました。
▲ ファンブレードの破断面と起点部分(NTSB photo)
やっぱりココだったか! どのキャビティなのかは明記されていませんが、「また、ファンブレードが破断!」に記したように、2018年2月に起きたPW4077のブレード11番、2020年12月に那覇で発生したPW4074のブレード16番とほぼ同じ場所のようです。調査が始まったばかりで断定的なことは言えませんが、そこが起点となって疲労亀裂が拡がり、破断に至った模様です。この部分のR(半径)が問題なのでしょうか?
これまでの経緯
時系列で簡単に整理してみます。
- 2018年2月13日
米国でPW4077エンジンのファンブレード損傷事案発生(NTSB調査、Factual Report:DCA18IA092)
- 2020年12月4日
那覇でPW4074エンジンのファンブレード損傷事案発生(JTSB〈日本の運輸安全委員会〉調査中)
- 2020年12月28日
JTSBがJCAB(日本の航空局)へ情報提供。ブレード破面に疲労破壊の特徴を認めた。
- 2021年2月20日
米国でPW4077エンジンのファンブレード損傷事案発生(NTSB調査中)
- 2021年2月21日
JCABがPW4000シリーズ搭載ボーイング777の国内運航を禁止
NTSBが調査情報をアップデート
- 2021年2月22日
P&WがPW4000シリーズのTAI(熱音響画像)検査の間隔を1,000サイクル(飛行回数)に短縮(2021年の事案は2,979サイクルで発生)
- 2021年2月23日
FAA(米国の連邦航空局)が緊急のAD(耐空性改善命令)を発効し、PW4000シリーズのTAI検査実施などを指示
- 2021年3月5日
NTSBが調査情報をアップデート
(NTSBの高解像度写真は こちらで見ることができます)
▲ PW4084エンジンの777-200、JA713A。2021年1月、やぶ悟空撮影
3つの事案に共通しているのは、PW4000-112エンジン、すなわちPW4000シリーズの直径112インチ巨大ファンブレードを使用したエンジンだということ。そしていずれの場合も、ファンブレード内部のキャビティの内側表面に疲労破壊の起点が見つかっていることです。
さて、ブレード破断の根本的な原因にどこまで迫ることができるのでしょうか?
コメント
素人でよくわかりませんが、Rのところに応力が集中した原因はRの形状がきれいなアーク
になっていないからなんでしょうか? 見たところなんか仕上げが雑な形になっているきがしますが
中空ブレードの製造は、外側はともかく内側の仕上げには大変な困難があるのだろうと想像します。Rが小さいとカーブがきつくなるので、応力が集中して疲労破壊の原因になりうると聞いたことがありますが、これらの事案については果たしてどうなのか…。