ホンダジェット、滑走路を逸脱

ホンダジェットが岡南飛行場への着陸に失敗し、滑走路から外れてしまいました。(岡山県提供写真)

何が起きた?

発生したのは 2021年3月13日(土)の17時26分。HA-420 HondaJet EliteJA01HJ が岡南(こうなん)飛行場の滑走路27に着陸しましたが、左にそれて草地(着陸帯)で停止しました。自ら地上走行できなくなって重大インシデント(滑走路からの逸脱)として取り扱われることになりました。

運航していたのは岡山航空(株)で、搭乗していた2名に怪我はなかったそうです。岡山航空はホンダジェットの「ディーラーサービスセンター」として選定され、運航や整備などのサービスを提供しています。2018年11月22日には、日本初のホンダジェット操縦士2名が誕生したと発表していました。(ホンダジェットの国内ディーラーは丸紅エアロスペース)

この写真を見る限り、細部はよく分からないので何とも言えませんが大きなダメージはなかったようです。前脚タイヤは半分以上見えており、主脚も埋まっただけでおそらく大丈夫でしょう。短い脚でよかった。

なぜこうなった?

原因をいろいろ想像してみるとき、岡南飛行場で発生した以前の事故を思い出しました。2015年6月10日の夕刻、双発ビジネスジェットのセスナ525AJA021R)が滑走路27に着陸しましたが、オーバーランして池に落ちてしまったのです。事故調査報告書によれば、原因には進入速度の過大やブレーキの遅れ、追い風での着陸などがあげられています。

▲ 岡南飛行場(岡山県のweb画像に加筆)

滑走路上で止まりきれずにその先の調整池に突っ込んだ6年前のサイテーション事故と違って、ホンダジェットは報道写真などを見ると滑走路のおそらく中ほどから徐々に左へそれたようです。09側のPAPI(精密進入角指示灯)の、滑走路を挟んで南側に停止していました。

この滑走路は、長さ1,200メートル、幅30メートルです。ビジネスジェットの離着陸を考えると、直感的には滑走路が短くて離着陸に気を使いそう…かな。

ホンダジェットの性能

HondaJet Specifications」というpdf資料(2017 Honda Aircraft Company)を見つけました。そこには、HondaJet Performance として Takeoff and Landing Distances は、

  • Elevation: Sea Level
  • Takeoff: 3,934 ft (= 1,199 m)
  • Landing: 3,047 ft (= 929 m)

と記載されています。この値は「Elite」が登場する前の性能です。

いま、webで「HondaJet Specifications」を検索すると、HondaJet公式ページがヒットします。そこでは「HondaJet」と「HondaJet Elite」が比較されています。

▲ホンダジェット・エリートの性能(HondaJet webより。白黒反転して加筆)

主にエレベーターの改良によりEliteの離陸距離は500フィート(約150メートル)以上短縮されましたが、着陸距離の改善はわずかです。Eliteの着陸に3,000フィート(約915メートル)必要とすると、岡南飛行場の1,200メートル滑走路なら数値上は十分着陸できる距離です。しかし、風や気温、重量や進入速度、接地位置や滑走路コンディション、減速のタイミングなど、条件によっては着陸距離のマージンが少なくなる場合があります。おそらくいつも緊張を強いられる着陸になるでしょう。

ちなみに、離陸する場合の距離は、

  • <3,500 ft、すなわち 1,067m未満(HondaJet Elite)
  • <4,000 ft、すなわち 1,219m未満(HondaJet)

ですから、改善されたEliteでも1,200メートル滑走路ではギリギリと考えて良いでしょう。もちろん、条件によりますが…。

気象の状況

アメダス岡山の当日のデータを見ると、気温は10~11℃なので空気密度は問題ないでしょう。風はおおむね北西で、平均風速7m/s(約14ノット)、最大瞬間10m/s(約20ノット)ほどでした。この値は岡南飛行場の観測値ではありませんが、進入時は右からの横風成分がそこそこ強く、風の息が少々あったかもしれません。

少し気になったのが滑走路方位と太陽。当日の岡南飛行場の日没時刻は18時10分ごろ。着陸時刻は17時26分でした。日没方位は267°なので、滑走路27ファイナルでは正面に太陽が見えることになります。アメダス岡山の日照時間を見ると、15時40分以降は(10分中)0分が続いていましたので、太陽が眩しかったということはなかったかな?

飛行航跡

当日、このホンダジェットはどんな飛行をしていたのでしょうか?

▲ 当日の飛行航跡(Flightradar24)

おなじみの Flightradar24で再生してみました。16時13分に岡南飛行場の滑走路27から離陸した後、高松空港で離着陸訓練を行ったようです。高松空港では計7回の進入と上昇を繰り返していました。

▲ 飛行高度と速度(Flightradar24)

ILS進入、VOR進入、そしてトラフィックパターンをまわるタッチ&ゴーやローアプローチだったのかもしれません。高松空港の滑走路は08/26で、長さ2,500m×幅60mという大型機も着陸できるサイズです。

ふと、セスナ機で訓練を受けていたころを思い出しました。いつも 600m×20mの滑走路でタッチ&ゴー訓練を行っていたので短くて狭いのには慣れていましたが、ある日、ナビ訓練で大島空港に向かうことになりました。1,800m×45mという滑走路は172Pにとっては巨大で着陸の感覚が異なるので、引き起こしのタイミングが早くならないように気を付けて…と教官に言われていました。いざ進入していくと、滑走路の幅がいつもの2倍以上もある広い舗装の中に埋もれていくように感じ、まだ高度があるのに引き起こしたくなる感覚を覚えました。教官に「パワー絞るのが早い、まだまだ。」と言われながら何とか接地させた記憶があります。

高速で進入するホンダジェットを操って高松空港の広い滑走路に進入を繰り返し、感覚がそれに慣れた状態で長さも幅も半分しかない岡南飛行場の滑走路に進入すると、いったいどう感じるのでしょう? 小さく見える滑走路は遠くに感じやすく、進入中の減速タイミングが遅れたりしないでしょうか? 風に息があれば進入速度をややプラスするでしょうし、接地後の横風修正も滑走路が狭い分だけシビアになりそうです。PCのフライトシミュレータでビジネスジェットを選択すると、よくオーバーランしていたので心配してしまいます。

ビジネスジェットのような小型軽量エンジンにはスラストリバーサー(逆推力装置)が付いていないので、減速はブレーキだけです。そういったハード面の調査も、もちろん行われることでしょう。

世界のホンダジェット事故

HondaJet HA-420が、ずいぶん順調に売れているようです。デリバリー数が「小型ジェット機カテゴリーにおいて4年連続で世界第1位を達成した」(2021年2月24日、ホンダエアクラフトカンパニー発表)とのこと。Hondaの技術が世界に評価されるのはとても嬉しいことです。

そうして機数が増え飛行回数を重ねていくにつれ、事故やインシデントの件数も増加してしまうのはある程度やむを得ません。Aviation Safety Network (ASN) の事故データベースで HA-420 HondaJet を検索すると、岡南飛行場の重大インシデントを含め計13件がヒットしました。13件中の10件は米国で、他の3件はサウジアラビア、ブラジルそして日本(本件)で発生していました。幸い、いずれも死傷者は出ていないようです。機体全損は、不運な竜巻の被害と滑走路を外れて落下したという、2件でした。

気になったのは「滑走路逸脱」事例が多いこと。13件中10件が滑走路をはみ出していました(残り3件は、先ほどの竜巻、パイロット側の窓の火炎、前脚が出ない状態での着陸)。タイヤのパンクが要因だったり、雨中の着陸でオーバーランという例もありましたが、滑走路から横に外れる事例が目立つ気がします。まだ母数が少ないので、たまたまなのでしょうか? 個別事案の詳細については調べきれていませんが、もしかすると何かの傾向を示しているのかもしれません。

HondaJet Elite(HondaJetのwebより)

コメント

  1. アバター AMIGO より:

    たしかに、滑走路が違うと感覚がちがうというの解ります。800m x 30mの滑走路でなれた人間には青森空港での3000m x 60mでの着陸は滑走路端でホバリングでもしているような
    錯覚を覚えた記憶があります。 3月26日 08:30 新千歳にホンダジェットがUHPPから来ます。ご参考まで。

    • やぶ悟空 やぶ悟空 より:

      ホンダジェット情報ありがとうございます。明後日、カムチャッカ経由で新千歳ですね。承知しました。ただ、ヤボ用を何とかしないと…。

  2. アバター AMIGO より:

    CALL SIGNは N575DMです。

  3. アバター AMIGO より:

    CALL SIGN は N575DM です。